(2)

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駐車場係の吉田にとって、その日は災難つづきだった。
まずは夕方のローテーションに入っていた係員のひとりが、風邪を引いたと言って休んだことだ。また例によってのずる休みだと分かっていた。それでも彼にはどうしょうもなかった。これでまた、責任者である彼の帰りが遅くなるのは確実だった。
次は昼間の騒動だ。どこかの馬鹿野郎が、こともあろうに今井社長の車のタイヤを、パンクさせやがった。それもご丁寧に4本ともだ。
彼は管理部長にこっぴどく嫌味をいわれた。
「吉田さん、管理人室でボケッとしてるだけが能じゃないぞ。ちゃんとモニターを見てるんだ。それから、見回りもしろよ。ますます足がなまっちまうぞ――」
おかげで彼は、昼からずっと立ちっぱなしだった。
駐車場を見回ったあと、車寄せで立哨をする。そんな半日を思い出して、彼はふたたびむかついてきた。
おまけに今は、地下一階のエレベーターホールに胡散臭い若造どもがいる。彼は先ほどから、若者たちを横目で観察していた。着ている服はまっとうなサラリーマンだが、顔つきが気に食わなかった。あれはどう見ても、チンピラヤクザの顔だ。やつら、あそこで何をしてるんだ?
彼は若者たちのほうに近づこうとして、彼らとの体格差に気がついた。
(ま、いいか。警備はわしの仕事じゃない)
吉田は回れ右をした。

そこでちょうど車寄せに停まったタクシーから、ひとりの男が出てくる姿を見た。
吉田は毒づいた。
(クソッ、今日はついてない。また嫌な野郎だ)
「よう、じっちゃん。相変わらずしょぼくれてるな」
営業課長の榊原が、能天気に声をかけてきた。
吉田は彼を無視して、あらぬ方向を見た。
「どうした、もう耳も遠くなったか。老化現象を起こしてるのは、ムスコだけかと思っていたが」
「ぬかせ!まだおまえよりもピンピンしてらあ」
思わず言ってしまって、吉田は後悔した。これでまた、営業部の若造に暇つぶしを与えてしまった。案の定、榊原が立ち止まって、彼を陳列品かなにかのように見下ろした。
「これで安心したぜ。まだまだじっちゃんも、色気を失っていないってことか」
とたんに吉田の小柄な体は、ぎゅっと抱きしめられ、尻を無遠慮に撫でられた。
「失せやがれ、このドスケベ!」
短い足で相手の尻を蹴飛ばそうとして、タイミングを逸した吉田は、エレベーターのほうに向かう榊原に毒づいた。

今井早紀は藤田会長といっしょに、エレベーターに向かっていた。夕方、会長から電話があって、帰りは彼の車に乗せてあげようと言われたのだ。彼女はいつも母の車に同乗して通勤していたが、今日は母が大阪に出張で、おまけに車が故障していたからだ。
ふだんはあまり口を利いたことのない藤田会長と一緒で、彼女はすこし緊張していた。それに、会長のほうも、どことなくぎこちなかった。
(あら、会長さんも、私のように緊張しているのかしら?)
そのとき、昇りエレベーターのドアが開き、榊原剛が現れた。彼は二人の姿を認め、さっそく話しかけてきた。
「会長、若い女性とデートですか?うらやましい」
藤田会長が無愛想に答えた。
「私の車で、彼女を自宅まで送ってあげるんだ」
「今井社長の車はどうされたのですか?」
早紀が横から説明した。
「あのう――車のタイヤがパンクして――それで、会長のお車に同乗させてもらうことにしました」
「パンク?でもスペアタイヤがあるでしょう?」
「誰かがいたずらして、4つともパンクさせたんです」
「ご丁寧に4つとも?社長の車をかい?」
榊原が不審そうに言った。
早紀は黙ってうなずいた。
そのとき下りエレベーターがやってきた。早紀と藤田会長はエレベーターに乗りこんだ。扉が閉まる前に廊下を見ると、榊原が立ち止まって、じっとこちらを見ていた。
エレベーターが地下一階に着いたときだった。会長は部屋に忘れ物をしたと言いだした。「ちょっと、ここで待っててくれるかい。すぐ戻ってくるから」
彼はそう言うと、エレベーターに戻った。
ドアが閉まり、早紀は車寄せの方に振り返った。いつのまにか、彼女を取り囲むようにして、若い男たちが立ち塞がっていた。

剛は廊下を歩きながら、なにか心の片隅に引っかかるものを感じていた。
社長車のパンク――会長の妙にぎこちない素振り――。エレベーターの扉が閉まる直前、こちらを見る会長の顔は、まるで仮面を被っているようだった。
ふと剛は、地下のエレベーターホールにいた3人の若い男たちを思い出した。スーツを着ているが、このビルではおよそ場違いな雰囲気の男たちだった。胸騒ぎがした。
(取り越し苦労かも知れんが――)
剛は向きを変えると走った。
エレベーターの到着が遅く感じられた。剛はいらいらしながら待った。
ようやくエレベーターに乗って、地下一階に着いた。
ホールには誰もいなかった。車寄せに
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