(4)
第5営業部の大石部長は、いつになく上機嫌だった。東横テレビへの機材納入が、無事に済んだからだ。そのご褒美に、今度の土曜日、3課の榊原課長と担当の徳永をゴルフに誘うことにした。
(そういつまでもいがみ合っておれんからな。いい機会だ、仲直りしよう)
彼は榊原課長を席に呼んで、そのことを告げた。
ところが榊原は、困った表情をした。
「せっかくのお誘いですが――金曜日から日曜にかけて、関西に出張する予定でして」
途端に大石は椅子から立ちあがって、榊原をにらんだ。
「なにっ、聞いてないぞ!」
「だから、いま言ったでしょうが」
「ぐぐぐ――」
大石は怒りに声も出ず、歯をくいしばるばかりだ。榊原は上司の憤懣やるかたない顔を見ながら、飄々として言った。
「東都美術館の篠山館長に誘われましてね。篠山さんには、来年11月の東都写真展の協賛社にしてもらおうと、アタックをかけているので、断りきれなかったのです」
「おまえ、あの篠山館長を知ってるのか?」
部下から高名な人物の名前が出て、大石は気勢をそがれた。
「ええ、学生の頃から、面識がありまして」
榊原はこともなげに言った。
「ふーん、そうか。で、協賛させてもらえそうなのか?」
「――」
榊原は一瞬沈黙した。しかし、大石のバカにしたような薄ら笑いを見て、平然と言った。
「もちろん、その可能性があるから、篠山さんにアタックしているんです」
「可能性?若いのが言い逃れによく使う言葉だな」
「言い逃れじゃないですよ」
そのとき、今井副社長が、いつもの穏やかな笑みを浮かべてやってきた。
さっそく大石部長が、榊原課長の話を副社長に報告した。彼なりの脚色をして――。
「東都写真展に協賛できれば、すばらしいことですね。しかし、ぼくも篠山館長と面識がありますが、あの人は難しい人ですよ」
大石部長の話を聞きおわると、今井副社長はおっとりと言った。紳士的な彼が、他人を批判めいて言うのはめずらしかった。
「榊原くん、入りこめる可能性はどのくらいあるんですか?」
「55パーセントくらいです。どこかの部長が邪魔をしなければ、5パーセントは上がるでしょうけど」
大石が気色ばんで何か言おうとするのを押しとどめて、副社長が言った。
「榊原くん、なにか手助けが必要なら、ぼくに声をかけてください。及ばずながらサポートしますからね」
待ってましたとばかりに、榊原は言った。
「ありがとうございます。ではとりあえず、こんどの京都出張を許可してください」
一平は、入社式のときのように固まっていた。彼の前にいるのは、今井社長と今井副社長だった。二人ともメディア21の創始者一族で、しかも社長は、早紀の母親だ。これから何を言われるのか、一平は皆目、見当がつかなかった。
膝を握りしめてかしこまる彼の前で、社長が安心させるように微笑んだ。
「あなたが徳永くんね。副社長が誉めるだけあるわね。いい面構えをしている」
一平は黙って頭を下げた。
社長が言った。
「あなたは東横テレビとの取り引きをまとめたそうね。お手柄だったわ」
「あれは、私の手柄じゃありません。榊原課長が段取りをつけてくれたものです」
「でも榊原くんは、きみのおかげだって言ってましたよ。そんなに謙遜しなくてもいいんですよ」
横から今井副社長が言った。
「はあ――」
一平はくちごもった。(あの榊原さんが、ぼくのことをそんなに持ち上げたのか)
そのとき社長が言った。
「ところであなた、私の娘とお付き合いをしているそうね?」
一平はハッとした。
(このことだったんだ、今日ぼくが呼ばれたのは)
彼は今井早紀との初デート以来、何回か公園でボートに乗ったり、食事をしたりしていた。
「はい――」
一平は小声でうなずいた。
「それで、早紀のことを、どう思っているの?」
一平は返事をためらった。二人の間には、愛が芽生えようとしていたが、彼はまだ気づいていなかった。
「あの人は――友達です。そのう、共通の趣味を持った。あの人は、公園でボートに乗るのが好きで――」
「そう――。でもこれからは、早紀に近づかないで」
社長の一言に、一平はびっくりした。
「あのう、早紀さんがそうおっしゃったのでしょうか?」
「そんなことは関係ありません。とにかく、早紀にちょっかいを出さないでください」
今井社長はきっぱりと言った。
一平はムッとして、社長の顔を見た。いくら社長でも、そんな道理のとおらない命令はない。
「社長、そのお言葉には従えません」
一平はきっぱりと言った。その実、彼の心臓は早鐘を打っていた。社長の横で、今井副社長が驚いたように、薄い眉を上品に吊りあげた。
「それに、ちょっかいを出すだなんて、私はそんなことをしていません」
一平の思わぬ反撃に、社長は少し沈黙した。
「言い方が悪かったのなら、謝ります。実
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