(3)

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「うちの社長が貝山とどんな話をしたかは知らない。それにしても、貝山という男は威張りくさったクズだ。あんなのが国政を担っていると思うと、日本の政治も終わりだな」
剛は兄の神山薫に、旅行の件を報告していた。
彼の話を黙って聞いていた薫が、同意するようにうなずいた。
「おまえにしては、よく我慢したな。ま、貝山が今井社長にどんな話をしたか、およそ見当はつくな」
「どんな話だい」
「おそらく貝山は、メディア21の株を売ってくれ、と今井社長に言ったんだろう」
「どうしてそんなことが分かるんだい?」
「おれがつかんだ情報から推理したんだ。貝山は、平和銀行に対して大口融資を申し入れている。その金でメディア21の株を買い足すってわけだ。榎本と手を組んで、じわじわとメディア21を支配しようとしてるんだよ」

剛は信じられぬ思いで、兄の話を聞いていた。まさか自分の会社に対してそんな陰謀があるなんて、とても現実のこととは思えなかった。
「それで、旅行の件は、誰がお膳立てしたんだ?」と薫が聞いた。
「はっきりとは分からんが、おそらく藤田会長だと思う」
「藤田会長か。彼と平和銀行の若井頭取、この二人が貝山に金玉を握られているな」
「どういうことだい?」
「やつらの常套手段だ。狙った企業の弱点をついて、交渉を有利に持っていく。おそらく若井と藤田は、やつらに弱みを握られているはずだ。おれも同じ手を使われたからな」
剛が不審そうに兄の顔を見ると、薫はフンと鼻を鳴らした。
「罠に嵌められたんだ。いつだったか、貝山や若井頭取とゴルフ旅行に行ったときだ。お供の秘書が、宮内と同じような初っぽいとっちゃん坊やでね。その夜、ちょっと可愛がってやったんだ」
「――?」
「それをあいつら、カメラで隠し撮りしやがった。最初からしくまれた罠だよ。貝山のやつ、秘書がマッサージ上手だとかほのめかしおって、そいつをおれの部屋に寄越した」
剛はニヤリとした。その秘書といえば、彼が熱海の温泉で助けてやった、円堂のことに違いない。円堂の妙に子供っぽい顔や女のように柔らかい肉体を思い浮かべて、さもありなんと思った。
「ふーん。で、その秘書の反応は?」
剛の問いかけに、薫はにんまりした。
「俺に突っ込まれて、死にそうな声を上げていたが――あれは絶対に男好きだ。俺を見る目つきで分かる」
兄の話を聞いていて、剛はふと、会社の小宮山や近藤を思い浮かべた。
彼らも同じタイプの男たちだ。むっちりとした肉体――表には出さないが、潜在的に男好きなタイプだ。それを見抜いた剛は、酒を飲ませ、ホテルに連れ込み、強引に彼らを押さえ込んだ。
兄の入れ知恵だった。自分より年上でも、一度やっつけておけば使い易くなる、と。そのときの苦悶する二人の声が蘇ってきた。

剛は想いを振り切ると、兄に聞いた。
「で、貝山は、兄貴に対してどうしたんだ?」
「貝山のやつ、そのときの写真を出して、おれを堂々と脅しやがった。うちの秘書にこんなことをしたからには、それなりの覚悟はあるんだろうなって」
「それで兄貴は、どうしたんだ?」
弟の質問に、薫はニヤリとした。
「相手は蛆虫どもだ。おれは、屁とも思っていない。なかなか良く撮れてると言ってやったよ。それに、円堂さんも、いい思い出になったことでしょう、とね」
剛はひかえめに笑った。
「いかにも兄貴らしいな。で、貝山の狙いは何だったのだ?」
「ふたつある。ひとつは、おれの持ってる株を売ってくれってさ。ほら、おまえも今井の爺さんに遺贈されただろう、メディア21の10万株を。おそらく藤田会長が、貝山に情報を洩らしたんだ」
「じゃあ、そのうち、おれにもアプローチしてくるかな」
「ああ、その可能性はある。せいぜい気をつけろ」
「兄貴こそ気をつけろよ。――で、もうひとつの狙いはなんだい?」
「榎本辰男をおれの会社の相談役にしろと言うんだ。代表権のある相談役にな」
「兄貴はどう返事をしたんだ?」
「あっさり断ったよ。榎本さんはビルの仕事よりも、株主総会で忙しい人でしょう、と言ってな」
「貝山はおとなしく引き下がったのか?」
「あいつはそんなタマじゃない。これからも、あの手この手でやってくるさ」
剛は心配そうに言った。
「兄貴――本当に気をつけろよ」

赤坂の閑静な一角にある料亭。その最奥部の部屋で、貝山博は榎本辰男と密会していた。店の従業員は人払いされていて、秘書の円堂が二人の酒のお酌をしていた。
「さすが今井の女房だけある。あれは、たいした女狐だよ。わしの体の下でひいひいとヨガリ声をあげておきながら、肝心の話になると、のらりくらりと逃げおった」
貝山の下卑た笑いにあわせて、榎本もにんまりと笑った。
「へーえ、先生のお道具を突っ込まれても、落ちなかったんですか。あの女社長、不感症ではないんですか?」
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