(2)
榊原剛は憮然たる面持ちで、XIPたちに同行していた。電車の中では飲み物を配り、旅館に着くと部屋割りや宴会の段取りをつける。
(これじゃあ、おれは小間使いじゃないか)
剛はムスッとして働いていた。
そんな剛を見て、彼の性格を聞いていた藤田会長は、そっとささやいた。
「榊原くん、きみにこんなことをさせてすまんな。でもこれは隠密旅行なんだ。会社の社員たちには知られたくない。だから、我慢してくれ」
「気にしないでください。でも、私も会社員ですよ。なんで私なんですか?」
「それは――社長のご指名だ。きみは社長の娘婿であるアスカビル社長の神山さんと、縁続きだろう?だからだと思うよ」
会長の説明はすっきりしなかったが、剛はそれ以上、追求しなかった。それに、兄に聞いていた貝山博にも興味があった。どんな人物なのか、直に見ることのできる絶好のチャンスだった。
しかし、剛はすぐに国会議員の世話をすることにうんざりした。要するに貝山は、権力を笠に着て威張り散らす、鼻持ちならない人物だったのだ。おまけにその秘書の円堂という男は、会社の小宮山や近藤と同じタイプの気の小さい人間だった。
剛はそんな気持ちを隠していた。せいぜい二日間の辛抱だ。剛は感情を抑えて、ビップたちのお世話をつづけた。
その温泉は、ガラス張りの巨大なドーム天井に覆われ、さながらジャングルの中にいるようだった。鬱蒼とした熱帯樹木の合間を縫って透明の湯水が流れ、淡い湯煙がたゆたっている。
円堂昌輔は湯の中を中腰になって、ゆっくりと進んだ。小太り気味の体は、色白、肌理の細かい肌をして、緑の中でよく映えた。
すぐ先では、若い男たちが、ふざけてお互いに湯をかけあっている。ほっそりとした若い肢体が、水しぶきとともに跳ねあがり、うねった。昌輔は胸をときめかせて、彼らのはじけるような裸体をまぶしげに眺めた。
(貝山先生に同行して、熱海まで来たかいがあった)
思いがけず、若い男たちの裸体を鑑賞することが出来て、彼はすっかり幸福感に包まれていた。
前に進もうとしたとき、右足のふくらはぎに鋭い痛みを覚えた。彼は湯の中に倒れこみ、反動でしこたま湯を飲んだ。ふくらはぎの痛みは息も止まるほど激しかったが、今は溺れる恐怖を感じていた。彼は喘ぎ、空気を求めて口をぱくぱくさせた。
そのとき誰かが、昌輔を抱えあげた。
激痛の中で、彼は軽々と運ばれていくのを覚えた。洗い場の床に降ろされた時、相手の男を見た。今回の旅行の世話役をしている、榊原という男だった。年の頃30代半ば、男らしいハンサムな顔をしている。
榊原は昌輔の右足を触って、独り言のようにつぶやいた。
「こむら返りを起こしたんだな。少し痛いけど我慢してください」
彼は昌輔の右足を伸ばし、親指をゆっくりと反り返らせた。ふくらはぎの筋肉が引き伸ばされ、その痛みに、昌輔は低くうめき声を漏らした。しかし、激痛は魔法をかけたように弱まっていた。
「どうですか。だいぶ楽になったでしょう?」
榊原は足指を反り返らせながら、もう一方の手で足首からふくらはぎにかけて、手際よくマッサージした。
痛みが急速に消えていった。男の手の動きは力強く、それでいて愛撫するように繊細だった。昌輔は男の手の感触にうっとりとしていた。
余裕の出てきた彼は、相手を観察した。男の体は贅肉ひとつなく、引き締まっていた。その顔は、なんとなく見覚えがあるような気がした。彫りが深く、血統のよさをうかがわせる整った顔立ち――。
男の股間に重々しくぶら下がる性器を見たとたん、胸の鼓動が速くなった。
彼はふいに、自分も裸なのに気づき、恥ずかしさを覚えた。相手の肉体に比べれば、自分の体など幼児のようだった。しかし男は、彼の心の動揺など気づかずに、マッサージを終えると、おだやかに言った。
「さあ、これで大丈夫ですよ。立てますか?」
榊原は昌輔の背中に手を沿え、彼を立ち上がらせた。それから、昌輔がひとりで歩けるのを確認すると、さっさと歩き去った。
昌輔は恋人を見るような目つきで、その後ろ姿を見送った。男に触られた興奮の余韻で、彼の体はかすかに震えていた。そのとき、最初に会ったときから気になっていたこと、榊原が誰に似ているかに思い当たった。アスカビルの神山社長に似ていたのだ。
今井京子は貝山議員の部屋にいた。
「やっとあんたと二人きりになれたな。これでわしの長年の夢がかなった」
貝山はソファーの上で体をすりよせ、京子の腰に腕を巻きつけた。興奮から息を荒げていた。
「よしてくださいよ、先生。こんなお婆ちゃんを捕まえて」
京子は議員の手からすり抜けようとした。
「あんたはお婆ちゃんじゃない。魅力的な女性だよ。淑女のように毅然として、娼婦のように妖艶で。わしはずっと前から、あんたを抱いてみたいと思っていたんだ」
貝山はな
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