(5)
徳永一平は、客とゴルフの付き合いをしろ、と榊原課長に言われたとき、仰天した。しかも次の日曜日だと言う。
「榊原さん、私はゴルフをやったことがないんですよ」
「だったら、練習しろ。まだ5日もあるじゃないか」
「まだ5日もあるじゃなくて、5日しかないんです。第一、にわか練習ですぐ本番だなんて、お客さまに失礼です」
榊原は一平の顔をまじまじと見た。
「おや、おまえは女と本番をやるときも、自家発電でたっぷりと練習を積んで、事に臨むのか?」
「そんな――」
一平は顔を赤らめた。「それとこれとは違いますよ」
「同じようなもんだ」
榊原はサラリと言うと、近藤に声をかけた。「ポンちゃん、お聞きの通りだ。徳永にゴルフを教えてやってくれ」
横で聞いていた近藤が、嬉しそうにうなずいた。
一平は仕事が終わると、毎日、ゴルフの打ちっ放し場で練習した。
いつも近藤がつきあってくれた。近藤は、ずんぐりむっくりした体型にかかわらず、ゴルフがうまかった。もともと体が柔軟な上に器用だったのだ。
彼は手取り足取り、一平にスイングを教えてくれた。
「ほら、グリップがきつすぎる。構えたときは、自分のナニを掴むつもりで、柔らかく握るんだよ」
「まだ腕に力が入っている。鞭だよ。きみの腕は鞭だと言いきかせて、スイングしてごらん」
「だめだめ、上体が固すぎる。きみは若いから、固いのは分かるけど、それは股座だけにしろ。さあ、肩の力を抜いて」
最初は空振りやチョロが多かったが、近藤のアドバイスが利いて、じょじょにボールが遠くに飛び出した。五箱打ち終わったところで、一平はへばった。左手のひらにマメが数カ所出来ていた。
「もう駄目です。マメが出来て、痛くって――」
近藤は慣れたリズムでボールを打ち終わると、汗ばんだ顔をタオルで拭きながら、椅子に腰掛けた。
「そろそろやめるか。しかしきみは筋がいいぞ。毎日続ければ、なんとかなりそうだ」
近藤は会社にいるときの様子と違って、すっかり自信に満ち溢れ、小さな目を生き生きと輝かせていた。
上司のお世辞を聞き流して、一平は肝心のことを聞いた。
「日曜日にお相手するお客さまって、どこの方なんですか?」
「なんだ、きみ、榊原さんに聞いていないのか?」
近藤は驚きながら言った。「東横テレビの小山会長と佐伯部長だ」
「えーっ、そんな偉い人たちですか?」
「ああ、小山会長は財界の大物だ。普通なら、われわれ一介の社員がご一緒できないような方だぞ。もっとも佐伯部長は温厚な人だから、あまり気を使わなくてすむけどな」
「小山会長はどんな感じの方なんですか?」
近藤は答える前に、すこし躊躇した。
「どんな感じって――テレビ局では、超ワンマンらしいよ。そうだな、どことなく得体の知れないところがあって。とにかく、いかにも大物って感じの人だ」
一平はだんだん不安になってきた。
「そんな偉い人と、初心者のぼくがゴルフをやるなんて。ほんとにいいのですか?」
「いいも悪いもない。榊原さんの命令だからな」
「でも、命令だからといって、お客さまにご迷惑のかかるようなことは――」
近藤は、一平をジロリと見た。
「きみ、榊原さんの前でそんなことを言うなよ。あの人を怒らせると、何をされるか分からんぞ。私なんかこれまで――」
そこまで言って、近藤はあわてて口を閉じた。「とにかく日曜日はがんばってくれ。小山会長は勝負に厳しい人だからな。あまりヘタクソだと、怒って帰ってしまうかもしれんぞ。それに、そんなことになろうものなら、今度は榊原さんが――」
近藤は最後まで言わなかった。そのことが、かえって一平の不安を増幅させた。彼はそわそわとして立ち上がった。
「あのう、近藤さん。ぼく、もう一箱打ちます」
日曜日の早朝、一平はスタート時刻より一時間前にゴルフ場に着いて、打ちっ放し場で練習した。昨日は、寮生たちとショートコースのゴルフ場に行って、一日中ゴルフをやった。結果はさんざんだった。
一平は球を打ちながら、きょうは何か恐ろしいことが起こるのではないか、と不安な気持ちでいっぱいだった。
練習を終えてクラブハウスに戻ると、近藤が食堂で接待客の相手をしていた。彼は一平を二人に紹介したが、彼自身もかなり緊張しているようすだった。
東横テレビの小山会長は、年の頃60代半ば、顔も体つきも大仏さまのような、恰幅のよい老人だった。捉えどころのない表情をして、眠そうな目で一平を見ていた。一平はこの老人に、息苦しいほどの威圧感を覚えた。
一方、業務部長の佐伯は、人好きのする童顔の中年男で、見るからに穏やかな性格の持ち主のようだ。
佐伯が愛想よく話しかけてきた。
「榊原課長はご都合が悪いとお聞きしましたが、なにかあったのですか?」
「はい、奥さまの実家に行かれています」
近藤が正直に答えた。
それを聞い
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