(5)

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一平は小宮山課長と一緒に、開発事業本部の堀部長のところに出向いた。
部屋には堀のほかに、本部長の関本常務がいた。常務の姿を見て、一平はいやな予感がした。この前、スナックで、榊原が常務と諍いを起こしたばかりだ。
驚いたことに、フィルムパックのデザインや製造原価の資料がすでに用意されていた。
榊原が堀部長に、いつどのようにして指示をだしたのか、大いなる謎だった。
さらに驚いたのは、堀部長の言葉だった。
「問題は製品の納入時期だな。榊原くんは5月1日までに間に合わせろと言ってきたが、あと1週間しかない。まさに神業を要求されているようなものだよ」
(5月1日までに――)
一平は唖然とした。そんなことは、榊原課長から一言も聞いていない。それに課長は、喜多会長に1ヶ月はかかると言っていたはずだ。小宮山を見ると、彼も同じ思いでいるのは明白だった。
堀部長に代わって、関本常務が二人の顔をねめつけながら、抑えた口調で言った。
「顧客とは決定事項だから絶対に間に合わせろ、と榊原は堀を脅したらしいな。今回の話を聞いたのは、昨日の昼過ぎだぞ」

小宮山は重役に詰問されて、手をもみ合わせだした。どうやら窮地に陥ったときの、彼の癖らしい。
(まさか昨日、客先で、榊原課長が思いついたことだとは言えないな。それに5月1日だなんて、4日もサバをよんでいる)
一平は、小宮山がどう返事をするのかと興味をもった。
小宮山は言葉につまりながらも、恐る恐る言った。
「あのう――どうしても間に合いませんか?」
途端に、開発事業部の二人が静かになった。
少しの間が合って、関本常務が抑えた口調で言った。
「上等だ。お前はうちの本部を恐喝しているんだな。無理難題を吹っかけておいて、あとはこちらの責任だと言うんだ」
そこで重役は声を張り上げた。「榊原を呼べ!うちをバカにするのも程がある!」
小宮山が弾けるように立ち上がって、部屋の隅の電話器に駆け寄った。

しばらくして、榊原課長がにこやかに微笑みながら、部屋に入ってきた。
「常務、この前は失礼しました。足は大丈夫ですか?で、きょうは何のお話です?」
関本は一瞬、毒気を抜かれたように息を詰めたが、気を取り直して言った。
「何のお話じゃないだろうが。喜多商事の件だ」
「ああ、喜多商事の件ね――よろしくお願いします」
途端に関本が、テーブルをドシンと叩いて立ち上がった。
「ばか野郎!脳天気にやるのも、たいがいにしろ!とにかく5月1日は絶対に間に合わんからな」
激昂する常務を無視して、榊原は席につくと、しばらく黙って開発事業部の提出した資料を手に取って見ていた。それから、前に座る堀部長の顔をジロリと睨んだ。
「堀部長。私のお願いしたことは、絶対に出来ない、と言われるわけですね?」
絶対に、というところを強調して問いかけられた堀は、返事をためらった。彼はいかにも生真面目な性格らしく、そっと横の上司をうかがった。
関本常務が声を張り上げた。
「当たり前だ!私が出来ないと言ってるだろうが!」

榊原課長は、重役のほうを振り向きもせずに、ひたすら堀部長の顔をにらみながら、低い声で鋭く言った。
「タヌキは黙ってろ!」
一同はギョッとした。関本が反応する前に、榊原は険しい顔つきをして、堀に向かって抑えた口調で続けた。
「どうしても間に合いませんか?」
生真面目な堀は、榊原ににらまれて、すくみ上がった。
「工場と調整してみる。何とかなるかもしれない」
彼は思わず本音を言っていた。
それを聞いて、榊原は安心したように立ち上がった。
「じゃあ、いい返事を待っていますよ」
そこで彼は、関本常務にむかって、深々と頭をさげた。「常務、先ほどは失礼なことを言いました。でもこの前、常務が私のことをタヌキと言われたお返しですよ」
関本常務が何か言い返そうとしたが、その前に榊原は書類を手にして、さっさと部屋を出ていった。あとに残された一同は、しばらく惚けたように動けなかった。

営業部に戻ると、榊原はパソコンに向かって作業をしていた。なにやらぶつくさ言いながらも、猛烈な勢いでキーを打ち続けている。時折、開発事業部から持ってきた資料を見ているところからして、どうやら喜多商事の件に関係のあることらしい。
榊原は作業が終わると、それをプリントアウトして小宮山を呼んだ。
「プーさん、どこかおかしいところがないか、チェックしてください」
榊原は書類を小宮山に手渡すと、鈴木妙子に声をかけた。
「妙子、ぼくちゃんとサンシャインは外出か?」
妙子が作業中のワープロから顔を上げた。
「いえ、営業会議に出ています。もうすぐ終わると思いますけど」
それを聞いて、榊原は慌てたようすだった。彼は小宮山にむかって聞いた。
「プーさん、それでいいですか?」
「あ――はい――これで充分だと
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