(4)

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つぎの週の月曜日、一平と小宮山は、榊原課長に同行して喜多商事を訪問した。先方には事前に連絡を入れていなかった。
「やあ、会長、いつ見ても若々しい」
榊原は喜多会長の部屋に入ると、にこやかな笑顔で老人に声をかけた。小宮山と一平は神妙な顔をして、その後ろについていた。
会長は苦々しげに眉をひそめた。それでも口振りはのんびりとしていた。
「なんや、アポなしで来よるから、どこの偉いさんかと思ったわ。それにしても、相変わらず心にもないことを言いおる」
「何をおっしゃいます、会長。私の性格をよくご存じのくせに。私はいつも、心に思ったことを、正直に話しているじゃないですか」
「アホぬかせ。あんたが正直もんなら、わしは聖人君子や」
「それでいいじゃないですか。会長は聖人君子だからこそ、取引先の信望も厚く、喜多商事をここまで大きくしてきたんでしょうが」
「ケッ、ますます心にもないことを言いおって――で、今日はなんだ?」
「ま、立ったままじゃなんですから、座って話しましょう」
榊原は親しげに会長の肩に手を回して、ソファーのほうに導いた。
「なんや、あんたとおると、この部屋の持ち主が誰か、わからんようになってくるわ」
会長はブツクサ言いながらも、デスクの上のインターホンをとりあげた。
「お茶を持ってきてくれ。並みでいいぞ」
一平は榊原課長のやり方を、感心して見ていた。とうてい太刀打ちできないと思えた海千山千の喜多会長と、まったく引けをとらずにやりとりしているのだ。
それに会長のほうは、口ではあれこれと言っているが、あながち榊原のことを嫌っているようにも見えなかった。

榊原は腰を落ち着けると、単刀直入に切り出した。
「小宮山に聞きましたが、お店では今後、うちの製品と東京フィルムのものを、折半で販売されるそうですね?」
「ああ、そうしようと思うてる。店のイメージチェンジを図りたいからな。さしあたっては、来月オープンする横浜店からだ」
「店のイメージチェンジはいいことです。私もこれまで、及ばずながら、いろいろとアドバイスさせていただきましたからね」
「そんなことあったかなあ――」
「あれっ、記憶にございません、と――なんだか、国会の証人喚問のようですね」
「そう言えば、かすかに記憶があるな。ま、あまりインパクトがなかったんで、覚えていないんやろ」
「ハハハ、面白い」
榊原は、わざとらしく笑った。「じゃあ、私が提案していた、店のカラースキームと従業員のユニフォームのデザインを統一したら、という案は取りやめですか。あるいは、客に親しみやすいほうがいいと、『町の写真屋さん』といった新しい店舗名を提案しましたが、あれも取りやめですか」
「ああ、あのことな――。あまり気乗りせんかったが、せっかくのあんたの提案や。採用することにした」
「それだけ?いや、べつに私は、恩着せがましく言ってるんじゃないですよ。確かに、カラーデザインの提案では、それなりのトップデザイナーに企画させて、金はかかりましたが、あれはうちの無償のサービスでしたからね」
「無償のサービス?だったら、いいじゃないか」
会長は、シレッとして言った。
「私はいいですけど、ここにいる小宮山は必死なんですよ。なにせ、御社へのフィルムの納入量が、半分に減るんですからね」
榊原の言葉に、小宮山がかしこまってうなずいた。
会長がふんぞり返って言った。
「だったら心配するな。新しい店舗展開では、これまでの売り上げを倍増させるつもりだ」
「それは心強いお言葉です」
榊原はサラリと言うと、話をつづけた。「でも、小宮山のために、うちの納入量を倍にするっていう、お考えはないのですか?」
「そりゃあわしも、小宮山さんのためにそうしたいけど、わしらも商売してるからな。どうも、一社独占ってのは、市場の論理に反している気がしてな」
二人に自分の名前を引き合いに出されて、当の小宮山は小さく固まっていた。

ふいに榊原が、指をパチンと鳴らした。
「逆ですよ。市場の論理にはまったく反しません」
そこで彼は、膝を乗り出して、喜多会長の顔をのぞき込んだ。「どうです、会長。いっそのこと、『町の写真屋さん』のオリジナルフィルムを作りませんか?」
一平には、榊原の持っていこうとしている、話の先が見えなかった。前にいる会長のほうも、けげんそうな表情をしている。
「店のデザインに合わせた装丁で、フィルムを作るんですよ。もっとも中身は、メディア21のものですがね」
やっと一平は、課長の言わんとしていることが読めてきた。喜多商事のオリジナルフィルムとして、メディア21の工場で作るのだ。フィルムそのものは変わらないので、装丁だけを変えるのは、さほど多額の投資をともなわないだろう。
喜多会長は、榊原の提案を吟味しているようすだった。
「しかし、今か
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