(6)

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ボビーとケイ爺が一夜を共にしたあと、ケイ爺が自分のところに同居しないかともちかけた。不忍池近くにあるマンションで、7階に部屋があると言う。
「ワンルームだけど、ベッドをもうひとつ置くスペースは十分ある。とにかく眺望は最高だよ。不忍池や上野の森が一望できる」
ボビーは、サトシが死んだあと、今住んでる2DKのアパートは広すぎると思っていた。それにケイ爺の住む不忍池は、住み慣れた浅草に近いこともある。それで、二つ返事で同意した。
ボビーが56歳、ケイ爺が71歳のときだった。
このときからボビーは、長年働いていた英会話塾を辞め、ケイ爺を手伝ってグランパで働くことにした。
彼の素直な性格と愛嬌のあるあんこがたの体型は、たちまち客たちの人気者になり、外人客も顔を見せるようになった。中にはボビーに、プライベートな付き合いを求める客もいたが、彼はやんわりと断っていた。

いっぽう、共同生活のほうは、ふたりとも性格的に淡白なほうだったので、波風も立たず、仲の良い関係を維持していた。
しかし、性的な関係を結ぶ機会は、さほど多くなかった。
最初の時こそ燃え上がるような情熱を掻き立てたボビーであったが、彼の精力はさほど強くなかった。やはり彼は、ウケになるほうが性に合っているようだ。
ケイ爺は最後まで求めなくても、ボビーの性器を弄ぶのが好きだった。
「私は包茎のおチンチンが好きなんですよ。初心で、どことなく愛嬌があって、それに何より人間臭いのが良い」
夜の生活は限られていたが、ふたりはしっかりとした心の絆を保っていた。
グランパの仕事以外でも、一緒に手料理を作ったり、地元のスーパーに買い物に行ったりした。ときにちょっと贅沢をして、一泊の温泉旅行に行った。
特にケイ爺は、房総の海が好きだった。人気のない海岸では素っ裸になって海に入った。波と戯れるほっそりとした老人の裸体は、贅肉が無く、いかにも健康的だった。
そういった日常を通じて、ふたりの何気ないお互いへの気遣いが、より深い愛情へと変わっていった。
そんなときボビーは、ふとサトシを思い出して、感謝するのだった。
(サトシ、ありがとう。きみのアドバイスのお陰で、こんなに充実した生活を送ってる)



翌年の正月、ケイ爺に連れられて、地元の湯島天満宮に行った。
ボビーが驚いたのは、ものすごい数の参拝客だった。
「正月三が日で、30万から40万の人がお参りに来るそうだよ」
ケイ爺が言った。「若い人の大半は合格祈願で来るんだ。なにしろここは、学問の神さま、菅原道真公を祀った神社だから」
(そういえば、あのときも人が多かったな)
ボビーは、梅まつりのとき、サトシと来たのを思い出していた。あのときは梅の花がいっせいに咲いて、馥郁とした香りで包まれていた。
ボビーはケイ爺に質問した。
「でもここは、いろんな呼び名があるけど、本当は何が正しいの?」
「何が正しいってことはないけど、湯島天満宮じゃないかな?旧称は湯島神社で、通称は湯島天神」
ケイ爺はうんちくを言った。「明治時代から第2次世界大戦にかけての頃は、全国の天満宮を神社と改称させられたんだ。宮の号は、皇族ゆかりの所しか使えない、なんて言ってね。菅原公は皇族じゃないからね」
そこで彼はくすりと笑った。
「ま、そんなお堅い話より、このあたりの門前町が、ゲイ発祥の地のひとつだってこと、知ってる?」

ボビーが黙っていると、ケイ爺は話をつづけた。
「江戸時代、ここの門前町には陰間茶屋という、春を売る少年たちを置いた遊郭がいくつもあった。ボビーは陰間って知ってる?」
いつだったか、サトシに聞いたことがある。ボビーは答えた。
「ああ、聞いたことがあるよ。江戸時代、歌舞伎役者のたまごで、売春していたゲイでしょう?」
「ほう、良く知ってたね。まあ、歌舞伎役者のたまご、とは限らないけど。ところで彼ら、何歳で客の相手をさせられたと思う?」
「さあ――」
「――12歳くらいから」
ケイ爺がぽつりと言って、ボビーは驚いた。遠い昔、彼がゲイに襲われたのは17歳だった。それでも死ぬほどの苦しみを味わっていた。
「12歳って――そんなの無理じゃないの?」
ケイ爺はボビーの言いたいことをくみ取って、説明を始めた。
「まだ大人の体になってないからね。でも、当時の客は、坊主や武士それに商人たち裕福な層で、彼らは遊び相手に、所作がやわらかい少年を好んだ。そのため、陰間とする少年たちは、わざわざ京あたりから連れてこられるのが多く、しかも、体が男っぽくなる前までが、売り時だったんだ」
彼はまわりを見て、声を落とした。
「当然、客はアナルセックス目的で、店にやって来る。だから、幼いアナルをいかに拡張するか、それが陰間修行の一番大切なことだった。最初は指による拡張――それも、1本、2本、3本と日数
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