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人生にはたくさんの分岐点がある。そして、ほんのささいな選択によって、その後の人生が大きく変わることがある。
アイルランド系アメリカ人のボビーが日本にいるのも、そんな分かれ道があったからだ。彼自身、自分がなぜ日本にいるのだろう、と疑問に思うことがある。でも、そんなことも思い出せないくらい、小さな選択がきっかけだったのだ。
そして今、ボビーが入ろうとしている小さなスナック。
そこでもふたたび、ボビーの人生を変える出来事が待ち受けていようとは、そのときの彼には予想もつかないことだった。
ボビーはニューヨークのブルックリンで生まれ育った。彼の名前は正確には、ロバート・ヘンリー・ホープという。しかし小さい時からボビーと愛称で呼ばれ、いつしかボビー・ホープが通り名となっていた。
ボビーの家系は、祖父から父親、兄へと続くポリスマン一家だった。そしてまた、ふたりの叔父たちもポリスマンだった。
そんな家系の中で、ボビーだけはポリスマンにならなかった。屈強な体格をしたホープ家の血を引きながら、ボビーの背は伸びなかったからだ。
しかし、彼がポリスマンになれなかった最大の理由は、肉体的なものではなかった。彼はあまりにも心が優しすぎたのだ。
ボビーの育ったブルックリン地区は、人種のるつぼのようなところである。白人、黒人、ヒスパニック、アジア人――大半が諸外国から移住してきた人間だ。そして、住民の4人に1人は貧困以下の生活をしている。
当然のことに、心のすさんだ人間も多く、凶悪犯罪も多い。
ボビーはそんな環境の中で、必然的に、危険から身を遠ざける術を覚えていった。それでも何度か危ない思いをしたことがある。そしてまた、実際、痛い目にあったこともある。
彼がハイスクールに通っていたとき、ちょっとした油断で、ハードなゲイたちに捕まった。背は低いがぽっちゃりと肥って、体毛の無いきれいな肌をしたボビーは、ゲイたちの格好の餌食だった。
彼は倉庫に連れ込まれ、激しく抵抗したが、気が遠くなるほど殴られた。それから裸に剥かれ、無力な子豚のように辱めを受けた。口腔や肛門に性器を突っ込まれ、何度も、何度も犯された。
それから1週間と置かずに、ボビーを襲ったゲイたちは、同じ倉庫内で半殺しの目に遭った。ボビーの父親とその同僚たちが、犯罪者たちを警察署にしょっ引かず、彼ら独自の制裁を加えたのだ。
ボビーの肉体の傷は時間の経過とともに癒えたが、心に受けた傷はいつまでも残っていた。一時期は、極端な人間不信に陥った。
それでもなんとか立ち直ったボビーは、ハイスクールを卒業すると、地元のスーパーで働き出した。彼が28歳になったとき、同じ職場のキャサリンという女の子といい仲になり、ささやかな結婚式を挙げた。
ふたりは小さなアパートを借り、新婚生活を始めた。
しかしこの生活は、ボビーにとって幸せとは言えなかった。キャサリンの本性は、だらしない女だった。料理ができないばかりでなく、家の中はいつも乱雑に散らかっていた。
そして夜の生活――ボビーはこれまで何人かの女性に誘われて、性行為に慣れていると思っていたが――キャサリンのほうが、はるかに経験豊富だった。
彼女はより強い刺激を求めて、毎晩ボビーを攻め立てた。ボビーもなんとか応えようとするが、どうしても精力が続かない。
そのころからキャサリンの背後に、男が見え隠れするようになった。これといった証拠はないが、何となく男の存在が感じられるのだ。
ボビーは辛抱強い男だった。
いくらキャサリンが自堕落な生活を送っていようと、彼は文句ひとつ言わず、仕事のかたわら几帳面に部屋を掃除し、食事を作った。
そして幸か不幸か、二人の間に子供は出来なかった。
ある日、ボビーは決定的な場面に出くわした。
何かの用事で、仕事の途中、家に帰ったときだ。ドアを開けたとたん、キャサリンの叫び声を聞いた。助けを求めるのではなく、激しいエクスタシーの声だった。
寝室に行くと、筋骨たくましい黒人が素っ裸で、キャサリンの上に覆いかぶさっていた。黒い肌の上を流れ落ちる汗と荒い息遣い――。ふたりがクライマックスを迎えたのは明白だった。
黒人はボビーの姿を認めると、悪びれもせずキャサリンから離れた。それからタオルでゆうゆうと前をぬぐった。黒い棍棒のような性器が、なお力を残して揺れ動いた。男は衣服を身に着けると、黙って部屋を出て行った。
いっぽうキャサリンは、興奮冷めやらず頬を染めていたが、開き直ってボビーを見上げた。そして、あざけるように言ったのだ。「あんたが私を満足させていたら、こんなことにはならなかったのに」と。
このときボビーは、生まれて初めて暴力をふるった。彼は泣きながら、キャサリンを叩いた。興奮して、自分が何を言ってるのかさえも分からなかった。
ふたりは離婚し
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