植田叉次と吉田和之は、仙台駅新幹線のホームにいた。
叉次はお尻にポッカリと穴が開いて、朝から何だかスースーと風が吹き抜けているような気がして仕方なかった。
昨夜は、別れを惜しむように、何度も肉体の交わりを持ち、疲れると小休止して話をした。眠りに就いたのは、深夜3時頃だった。
今は改めて話すこともなかった。ふたりは並んで立って、顔を見合わせるのを避けるように、ぼんやりと前方を眺めていた。
やがて、列車の到着を告げるアナウンスがあった。
それを待っていたように、叉次が話しかけた。
「ひとつだけ、きみに聞きたいことがあるんだ」
「なんですか、支店長」
「きみは大野常務と、そのう――」
叉次は、どう聞こうかと迷ったが、思い切って言った。「昨夜のような関係なのか?」
和之は、すぐには答えず、逆に質問した。
「支店長は、どうしてそう思われるのですか」
「だって、この前――大野常務が来られたとき、きみは外泊した。だから、ひょっとして、と思ったんだ」
和之は微笑みながら、叉次の腰に腕を回した。
「その疑問は、支店長の胸のうちに収めてください。ひょっとしたらいつの日か、大野常務が、直接答えて下さるかも知れませんよ」
言ったあと、彼は手をずらせて、植田の尻をサワっと撫でた。そして周囲をそっと見て、菊座のあたりに指を押しつけた。
叉次が顎をのけ反らせて、思わず声を出しそうになった。
列車がホームに滑り込んできた。
別れ際に、ふたりは万感の思いを込めてお互いの顔を見つめた。何かを思いつめたような支店長の顔を見て、和之は安心させるように微笑んだ。
「じゃあ、支店長――そのうち遊びに来ますよ」
「ああ、きっとだよ――福岡でも達者でな」
叉次は思わずこみあげてきて、和之の大きな体にしがみつこうとしたが、それをかろうじて自制した。代わりにおずおずと手を差し出した。ときめいた息遣いを感じさせる仕草だった。
和之は小さな手を握りながら、老人の耳元に顔を近づけて、そっとささやいた。
「私がお相手した中で、あなたはすべてにおいて最高でしたよ」
「おそらくきみは――」
叉次は、涙の滲んだ目で和之の顔を見ながら、穏やかに言った。「一年後には、福岡の老いぼれ支店長に対して、同じことを言ってるんだろうな」
おしまい
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