(2)夜の密会

その日の夕方、和之は商工会議所の重厚な応接室にいた。応対した年配の男性が、「理事長はまもなく参ります」と言った。
やがてドアが開いて、理事長が部屋に入ってきた。
その顔を見たとたん、和之はギョッとした。なんと半年ほど前、浅草の行きつけのフケ専バーで意気投合して、そのままホテルに連れ込んだ老人に似ていたからだ。
年のころ70前後、中肉中背で上品な顔立ち。あのとき、お互いにトーさん、ヨッちゃんと呼び合ったが、老人は東北から来たと言っていた。
そして今、鳥居理事長の声を聞いたとたん、和之は確信した。
(やっぱりあの時の人だ)
しかし鳥居のほうは、和之に気付いていないのか、驚いた表情も見せず、儀礼的な態度を崩さなかった。
和之は鳥居に合わせて初対面の会話を続けながら、頭の中では疑問符が飛び交っていた。
(人違いかなあ。それとも他の理事が一緒なので、知らん顔してるのかなあ。でもあの目は――)
あのとき、和之が老人に魅かれたのは、色素の薄い瞳だった。優しさを滲ませた、夢見るような円らな瞳――。

和之は、少し冒険してみることにした。彼はふたりの年配者に明るい笑顔を振りまくと、鳥居に対して何気ない調子で聞いた。
「こう申しては失礼かもしれませんが――理事長とお会いしたとき、なぜか懐かしい方にお会いしたような気がしました。以前わたしたちは、お会いしたことがないでしょうか。たとえば東京の浅草とかで――」
鳥居は小首をかしげた。
「さあ、東京には仕事の関係で、年に何度か出かけていますが――」
そこで何かを思い出したように「ちょっと失礼。すぐ戻ってきます」
ひとこと言うと、鳥居は立ち上がって、部屋から出て行った。

その日の会合は、あたりさわりのない会話で終始した。
別れ際に、鳥居理事長がさりげなく言った。
「今度は会社の方においでなさい。仕事の話なら、ここより実りがあるかも知れません。社長も紹介してあげますよ」
鳥居は、会社の名刺を和之に渡した。肩書は会長となっていた。
和之はふたりと別れた後、渡された名刺を何気なく見ていて、裏に走り書きがあるのに気づいた。おそらく鳥居理事長が席を外した時に、書いたものだろう。
『21時 Tホテル 1101号室』と書かれていた。

そっとノックすると、ドアが開いて、ガウン姿の鳥居が立っていた。
「さあ、中に入って」
鳥居は、和之を部屋に入れると、ドアを閉め、慎重にラッチ錠をかけた。それから振り返って、和之にしがみついてきた。
「ああ――きみのことは、夢にまで見たよ」
「やはり、トーさんだったのですね」
「ああ、ヨッちゃんだとすぐ気付いたけど――理事がいたからね」
「それにしても、トーさんはお芝居がお上手だ。私の勘違いかと思いましたよ」
「ハハハ、しかしこれで、お互いの正体がばれちゃったな。さあ、ワインを用意している。まずは再会の祝杯といこう」

リビングとベッドルームが続きになった、豪勢な部屋だった。ワインを飲みながら、鳥居が説明した。
「この建物は、うちの会社がホテルに貸してるんだ。それで、わたし専用の部屋がある。ひとりになりたいとき、あるいは、大事なお客さまが仙台に来られた時に泊まっていただくためにね」
「そして、今夜のようなときの為でしょう?」
和之が言うと、鳥居が微笑んだ。
「逢引で使うのは、今夜が初めてなんだ。地元では、私もそこそこ知名度があるんでね。いつも人の目を気にしていなければならない。だから、東京に行った時しか、遊ばないことにしている」
鳥居はグラスを掲げて、いたずらっぽくウインクした。
「今夜はかなりのリスクを犯しているんだよ。でもヨッちゃんが相手だから、冒険のやり甲斐がある」

鳥居はすでにシャワーを浴びたのか、髪が濡れていた。ふたりはソファーの上で、どちらからともなく抱き合い、口付けをした。
唇と唇の接触が、ふたりの興奮を急速に高めた。ふたりは性急に、お互いの感じるところをまさぐりあい、衣服を脱がしあった。
鳥居は太ってもいず、痩せてもいず、うっすらと脂肪の層で覆われた、なめらかな肌をしていた。体毛は殆ど無く、股間に生えた灰色の陰毛も、極端に薄かった。
一方、和之は平凡な風采だが、裸になると異彩を放った。壮年男の逞しさをみせる肉厚の体、それにどんよりとぶら下がる股間の逸物は、目にしたものが思わず釘付けになるような立派さである。長さも太さもたっぷりとボリューム感があって、しかも形状たるやカリが張り詰めて、ふてぶてしいほどである。

場所をベッドルームに移すと、鳥居は和之をベッドに横たえた。
「フフフ、今夜はたっぷりとサービスしてあげる」
鳥居はベッドにあがり込むと、マッサージ嬢の手つきで逞しい肉体を愛撫した。
手の平にマッサージオイルを垂らし、肉の厚い胸板からみぞおち、腹、太股へと優しくゆっ
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