(3)
俊信が立ちあがって、ゆっくりと拍手をした。
「お見事だ。きみは国文学を勉強していると聞いていたが、推理作家になったほうがいいんじゃないか。しかし、きみの夢物語はもう聞き飽きた」
「夢物語じゃないよ」
「じゃあ、加奈子が殺されたとき、おれが、兄貴と藤沢先生を車で町まで送ったことは、どう考えるんだ?」
「あなたがたは10時頃に、城から町に向かった。加奈子さんが殺されたのは正午過ぎですから、アリバイにはなりません。あなたはそのあと隣町まで行ったと言ってますが、その実、青雲荘に行ったのですよ」
「じゃあ、おれが犯人だと言う証拠を見せてくれ」
「証拠はありません」
「証拠がない?ねえ、警視さん、どう思われます?」
俊信は葛城警視に聞いた。葛城は困ったような顔をした。
貴志は、のんびりと言った。
「でも、あなたの写真を持って、あなたがいつどこにいたかなんて、集中して調べれば、目撃者はいくらでも出てくるはずです。なにしろあなたは、皇子町では名門のご子息ですからね」
そこで貴志は、思いついたように言った。「あなたは、部外者が参加できない嘉信祭に、ぼくを参加させようと熱心に勧めた。あれは太田さんと共謀して、嘉信祭の奇跡を演出するために、ぼくを利用しようとしたからです。それに、さっき洞窟のなかで、あなたは大岩に触りもしないのに、岩はびくともしない、爆弾でもしかけるのか、と言っていましたね。そんなことは、事前に調べたことがある人にしか、分からないことです。あ、そうそう、昨晩、灯篭流しのとき、上流のボート小屋に近づいた車のタイヤ跡も調べる必要があるな」
「うるさい!」
不意に俊信は、横にいた葛城警視の首に片腕を巻きつけた。警視から離れたとき、その手には警視の腰につけていた拳銃が握られていた。
俊信は銃をかまえながら、じりじりとあとずさった。端正な顔がゆがんでいた。
「俊信くん、悪あがきはやめろ。どこにも逃げられんぞ」
一郎が前に出ながら言った。
「うるさい!後ろに下がれ!」
俊信は銃口を一郎に向けた。彼の声は震えていた。
「俊信――」
お館さまが言った。「おまえはどうして、こんな恐ろしいことをやったんだ?」
老人の声は悲痛だった。
俊信は叫んだ。
「金が欲しかったんだよ!おれは投資で失敗した。2億円の借金があるんだ」
「だったら、どうして私に言わなかった」
「親父は兄貴のことばかり気にかけてた。おれのことは眼中になかったんだ。――おれのことを気にかけてくれたのは、太田さんだけだった」
「どうしてそんなことを――」
お館さまは声を震わせた。「私は子供たちに対して、えこひいきをした覚えはない」
秀信が、父親の横から言った。
「そうだよ、俊信。お父さんはいつだって公平だったじゃないか」
「うるさい!兄貴には言われたくはない。身勝手な兄貴にはなっ!」
「じゃあ加奈子を殺したのは、ぼくに対する腹いせか!」
珍しく秀信が語気を荒げた。千佳子が複雑な表情で夫を見た。
「違う!兄貴が加奈子とできてるのを知ったのは、あの後だ」
「俊信――」
お館さまが千佳子をそっと見て、言った。「なんで、3人もの人たちを殺めた?」
「――殺すつもりはなかった。でも、仕方なかった――仕方なかったんだ」
「尊い人命だぞ、仕方なかったで済まされるか!」
俊信は、開き直ったように言った。
「なんとでも言ってくれ。おれは親父のような人徳がない!」
「俊信!」
お館さまが激昂して息子に歩み寄ろうとするのを、貴志がさえぎった。
「俊信さん、ひとつ聞いていいですか?」
「なんだ!」
「嘉信の財宝のことは、どうして知りました?」
「太田さんが教えてくれた。――おれが借金に困って相談したときに」
「そうですか――でも終ったんです。さあ、その拳銃を返して下さい」
「まだ終っていない!」
俊信は叫んで、銃の撃鉄を起こした。
カチリという音がして、全員が凍りついた。
静寂のなかで、滝の音だけがつづいた。
貴志が沈黙を破って、一歩前に出た。
「いけないよ、俊信さん」
「下がれ!」
俊信は銃口を貴志に向けながら、ジリジリと後ろにさがった。
貴志は確信がなかったが、思いきって言った。
「あなたは、本当は優しい人なんだ。東京で困っていた太田さんを、あなたは救ってやったんでしょう?」
彼はもう一歩、俊信に近づいた。
「こちらに来るな!太田さんは、おれよりも、おまえが気に入ってたんだ」
「それは違うよ、俊信さん。だって彼は、一番大切にしていた宝物をあなたにあげたじゃないですか」
俊信が、けげんそうな表情をした。
「懐中時計ですよ。あれは、太田さんのお父さんが、天皇陛下からいただいたものです。太田さんは、その形見を一番の宝物にしていた」
俊信の顔がゆがんだ。
貴志は一歩、前に進んだ。
「動くな!それ以上
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