(2)
財宝箱を囲んで、皆が思い思いの格好で貴志を見ていた。貴志は竜神の滝を背景に、川原に立っている。
「嘉信の財宝は見つかりましたが、これまで4人の人たちが襲われ、3人の方が亡くなられました。その犯人はまだ捕まっていません」
貴志は、集まった顔ぶれを見ながら、切り出した。
「最初に、加奈子さんがここで殺されました」
彼は振り返って、滝のほうを指差した。「彼女は川原の先端のところに倒れていて、抵抗した形跡はなかったそうです。と言うことは、彼女は不意をつかれた、と考えざるをえません。でも、彼女がよそ見をしていたとしても、犯人が近づく足音は聞こえたはずです。ご覧のように、ここには沢山の砂利がありますからね。
つまり犯人は、加奈子さんと顔見知りだった。加奈子さんと話をしていて、隙を見て彼女を川原の石で殴った。そして絞殺した――」
貴志は皆の顔を見渡した。
「考えられるのは、おそらく犯人は、加奈子さんと深い関係にある者ではないか――彼女は妊娠していました――」
秀信がヨロヨロと立ちあがった。彼の顔は血の気が失せて、口元が震えていた。
「違う――私がやったんじゃない――」
秀信は震え声で言った。妻の千佳子は、無表情に夫を見ていた。
「秀信さん、ぼくの話はまだ終っていません。最後まで聞いてください」
貴志は、秀信を手で制すると、話をつづけた。「次の日から連続して、大橋、吉田、太田と、3人の方たちが襲われました。不幸中の幸いと言うか、大橋さんだけは、一命を取り留めました。それに、一部の方しか話していませんが、ぼくと藤沢兄弟も何者かによって危険な目にあわされました」
聞いている皆の間に、動揺がはしった。
「仁王山に登ったとき、ぼくたちはロープをつたって、鍾乳洞の竪穴を降りました。そのとき誰かが、ナイフでロープに切れ目を入れ、その結果、ぼくたちは10メートル下の鍾乳洞に閉じ込められたのです」
貴志は、自分の言葉が皆の頭に浸透するのを待って、話を続けた。
「今回の一連の事件は、同一犯によるものだと仮定して考えてみました。
何の目的があって?殺人の動機は何なのか?
そこで、嘉信祭のときの変事を思い起してください。
みそぎの儀式のとき、急に滝が増水しました。また神事のとき、燭台の火が暗くなって、銅鑼の音がした。そしてぼくに、嘉信さまが乗り移った――。
でもこれは、誰かが仕組んだものだと、藤沢警視が証明してくれました。滝の増水は、誰かが乙女ヶ淵の水門を開けたのが原因だったし、燭台の火は、機械室で空調機を操作した結果でした。それに銅鑼は、郷土資料館から持ち出されていました」
そのとき、俊信が横から口出しした。
「嘉信がきみに乗り移ったのは、どういう仕掛けなんだい?」
「それはあとで話します」
貴志はゆっくりと、財宝箱のほうに歩み寄った。
「その誰かは、何のためにそんなことを仕組んだのか?それは、青雲荘から人を遠ざけておきたかったからです。そして、その答がこれです」
彼は財宝箱を指さした。
「そう考えると、事件のすべてが繋がってきます。大橋さんが襲われた夜、誰かが蔵に潜んでいた、という証拠があがっています。それにお館さまが言うに、蔵のなかにあった古い書物の入った箱が、いじられている形跡があったそうです。
つまり犯人は、蔵で古い書物を調べていた。おそらく、財宝につながる手がかりを探していたのではないかと思います。
それから、吉田さんは、お城や資料館、乙女ヶ淵の水門の管理責任者でした。嘉信の奇跡を演出するには、彼の持っている鍵が必要だった。
そこでぼくは思いつきました――キーマンは太田さんだと。
太田さんは吉田さんと同級生で、ふたりは仲が良かった。太田さんにとって、鍵を手に入れるのは容易だったはずです。事実、太田さんがスーパーの鍵屋で、スペアキーを作ったのを警察で確認しています。
また彼は、嘉信のことについて、ぼくにいろいろの情報を吹きこみました。神事のとき、ぼくが嘉信さまに乗り移られたというのは、ぼくが太田さんの家に行ったとき、催眠術をかけられたのだと思います――もっともぼくには記憶がありませんが。葛城警視の調査では、太田さんは心理学の専門家で、催眠法はその範疇のひとつだそうです」
貴志は、葛城警視のほうをチラリと見た。葛城がわずかにうなずいた。
「しかし、その太田さんも殺されました。それは、彼に共犯者がいたということです。そして、仲間割れをして、太田さんは殺された――。
ぼくは考えました。嘉信祭の奇跡は、おそらく太田さんが、仕組んだことではないか。しかし殺人は、もうひとりの共犯者がやったのではないか、と。
太田さんは、吉田さんと同じ手口で殺害されています。それに加奈子さんや大橋さんは、立っているときに、頭頂部を石で殴られています。大橋さんは大柄な
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