(1)
朝6時に目覚めると、貴志は真っ先に、お館さまのところに行った。この町に来て、早起きは習慣になりつつあった。
お館さまはまだ着替えもしていず、浴衣姿のまま庭で体操をしていた。胸元が大きくはだけて、白い肌が露わに見えた。主人を見守るように、トラがおとなしくお座りしていた。トラは貴志の姿を認めると、ひと声ワンと吠えて挨拶した。
貴志はトラの頭をなでながら、老人に言った。
「爺さん、和泉家の関係者を全員、青雲荘に集めてくれないか。それから、大きな鉄のハンマーと丈夫なロープを何本か、それに懐中電灯とカンテラをあるだけ用意して。あ、台車が必要になるかもしれない。それもお願い」
「おいおい、朝っぱらから何を始めるんだね?」
「洞窟探検だよ」
「洞窟探検?」
お館さまは小首をかしげた。
「嘉信の財宝――」と貴志がつぶやいた。
お館さまが目を丸くした。
「タカシくん――きみは財宝を見つけたのか?」
貴志は肩をすくめた。
「たぶんね」
お館さまは、疑わしげに貴志を見た。
「しかし、きみたちは今日、東京に戻る予定だろう?時間はあるのかい?」
「あるさ、爺さん。じゃあ、7時半に、青雲荘に集まることにしよう」
お館さまは何か言いたそうだったが、黙ってうなずいた。
朝食を終えたあと、帰り支度を整えた和泉昭信が、貴志のところにやってきた。
「タカシくん、わしたちはこれから神戸に帰る。きみにはずいぶん世話になったね」
老人の素直な言い方に、貴志は相手の顔を見た。また嫌みを言われているのかと思ったが、その顔には邪気もなく、めずらしく真面目な顔つきだった。
「い、いや、こちらこそ――おじいちゃんには、ずいぶん失礼なことを言ったりして、ごめんなさい」
「それは、わしのほうもだ。東京に戻ったら、元気でやるんだぞ。そのうち、神戸のわしの家にも遊びにおいで」
貴志は老人の言葉に感激した。口は悪いけど、根はいい老人だったんだ。彼はしんみりとして言った。
「ああ、ぜひとも遊びに行きます。おじいちゃんも元気でね」
「じゃあ、仲直りだ」
老人は、手を前に差し出した。
貴志もつられて、その手を握った。
途端、ビリビリと電気ショックが伝わり、思わず貴志は悲鳴をあげた。
老人が、掌につけた玩具を外しながら、ケッケッケッと笑った。
「バカめ。引っかかりおった」
――屋敷のなかに、貴志の声が響きわたった。
「この、クソじじい!ケツの皮をひんむいてやる!」
貴志は、藤沢兄弟や警官たちと一緒に、青雲荘に向かっていた。和泉家の人たちは、すでに先に出かけていた。
青雲荘への道すがら、葛城が太田の事件について、これまで調査したことを報告した。
「死亡推定時刻は、昨日の午前9時から10時のあいだと思われます。首を締められた傷以外に、外傷はありませんでした。それから、死体の乗っていた船は、和泉秀信さんの釣り船でした。昨夜のうちに、上流の小屋に行って調べました」
「遺留品は、見つかりませんでしたか?」と一郎。
「まったく何も見つかりません。船の中にも、上流のボートを係留していた小屋にも。
ただし――ボートをつないでいたと思われる綱の一端が、切られていました。切り口から見ると、ナイフでも使ったんでしょう」
「ナイフで切られていた?」
一郎と貴志は顔を見合わせた。彼らが仁王山の鍾乳洞に入ったとき、命綱を切られたのもナイフの切り口だった。
「前に秀信さんと釣りに行った時、そのボートは小屋の中に格納しました。なぜ犯人は、ボートを川に流すのに、わざわざ係留して、それから綱を切ったのでしょう」
貴志は言ったあと、葛城に聞いた。「小屋の扉の鍵は、掛かっていなかったのですか?」
「ああ、鍵は開いていた」
「それで――小屋からぼくたちがいた橋のところまで、船が流れ着くとして、どのくらい時間がかかると思いますか?」
葛城は寝不足の目をしばたかせて、ちょっと考えた。
「そうだな――距離にして2キロほど上流にあったから、20分前後じゃないかな」
一郎は、チラリと貴志を見た。
「つまりきみは、犯人が太田を殺したあと、遺体をボートに乗せて係留しておき、灯篭流しの時刻を見計らって、もやい綱を切ったと言いたいんだな」
貴志がうなずくと、一郎は葛城に言った。
「しかし、太田が殺されたとなると、ますます事件は複雑になってきましたね」
一郎の言葉に、葛城がうなずいた。
「そうなんです。太田が一番、臭いとにらんでいましたから。それに、太田を殺した手口は、吉田さんの場合と同じです。傷跡からして、同じような細紐を使っています」
一郎が話題を変えた。
「ところで、タカシくん。嘉信の財宝は、本当に見つけられるのか?」
「ええ、昨晩、じっくりと考えました。見つける自信があります。それに殺人事件の犯人も――」
みんながエッというように、
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