(2)
貴志と藤沢兄弟は、安国寺から少し離れた、もうひとつのお寺に向かった。
来迎寺は浄土宗の寺で、古くから庶民の信仰の場として栄えているようだ。
広い境内にはやぐらが組まれ、ゆかた姿の老若男女が盆踊りをしていた。その光景を眺めながら、貴志は教授に話しかけた。
「こうやって皆が踊っていると、一体感が生まれるんですね。そして新たな愛が生まれるんだ」
英二があきれたように言った。
「きみは、そんなことしか考えられないのか。ちっとは素朴に祭りを楽しめよ」
そのとき写真を撮っていた一郎が戻って来て、英二にカメラを渡しながら言った。
「ちょっと持っててくれ。子供の頃、踊ったことがある。私も少しやってみよう」
一郎は人の輪に加わり、見よう見真似で踊りだした。結構、様になっていた。豊満なお尻にゆかたの布地が張り付いて、ボリュームたっぷりに揺れ動く――。
見ている貴志は、俄かに息苦しいほどの興奮を覚えた。
そんな貴志に気づいて、英二は信じられない思いだった。昨夜は、初めて性的な行為をして、ふたりが特別な関係になったと思っていたのに、その青年は今、ほかの男に心を奪われているのだ。彼は青年に向け、嫌味たっぷりに言った。
「そうやってきみは、年配者のお尻に発情しているんだ」
3人が来迎寺を出たところで、和泉家の人たちと出会った。
「いいところで会いました。これから川で灯籠流しをやります。一緒に来ませんか?」
お館さまが声をかけた。彼らはめいめい、和紙と木でできた灯籠を持っていた。
「これは素敵だ!」
英二が灯籠を見て言った。灯籠には、色とりどりの絵が描かれている。
「先生、灯籠が気に入ったかね。なら、わしのを持っていきなさい」
昭信が、英二に灯籠を渡した。そこで貴志のほうをチラリと見た。「ただし、あなたの生徒には触らせないでくださいよ。灯籠が穢れるから」
「可愛くない――」
貴志はぶつくさ言った。「まったく、可愛げのないじじいだ」
一行は、薄暗い夜道を、川のほうに向かった。川に着くまでに、30分ほどかかるという。道中、昭信が、足が痛いとぶつくさ言いだした。
「昭信、だらしないヤツだな。帰りは渡辺が車で迎えに来てくれる。だから、もうちょっと我慢しろ」
お館さまが弟をたしなめた。
貴志が背後から、聞こえよがしに言った。
「まったく、だらしのないじっちゃんだぜ。ま、足が短い分、人よりたくさん回転させなくちゃならないから、仕方ないか」
「タカシ――」
英二が小声で叱った。彼は盆踊りのとき、貴志が一郎の尻を熱心に見ていたことで、まだもやもやとした気分だった。
「フン、わしは東京からきた山猿と違って、足がデリケートじゃからな。おつむがアッパラパな体力バカとは、訳が違うわ」
昭信が言って、貴志もむきになって言い返した。
「和泉家って高貴な血を引いてると思ったけど、どこかの能天気なじじいは、本当に和泉家の人間なのか。それとも突然変異の奇形体か――」
「タカシ――黙りなさい」
英二がふたたび、貴志を叱った。
「先生、いいんじゃ。蛙の面にションベンと言ってな、礼儀知らずの若造には、何を言っても無駄じゃ」
すかさず貴志が、言い返した。
「ケッ、風船団子がよく言うぜ。そんなに足が痛いのなら、ストローを肛門に突っ込んで、空気を送り込んでやるから、宙を飛んでいけばいいんだ」
「タカシっ!黙らないと、私のゼミから追放するぞっ!」
とうとう英二がたまりかねて、大声で叫んだ。そこでみんなの視線を感じて、彼はハッとした。しかし、彼の一喝が利いたのか、あとの道中は静かなものになった。
大貫川に着くと、川筋に沿って、すでに大勢の人たちが集まっていた。その数からすると、おそらく町の人たちだけでなく、他の都市からも見物客が来ているのだろう。
暗い川面いっぱいに灯籠が浮いて、ゆったりとしたスピードで、下流に向かって流れていた。まるで無数のホタルが群れて、川面を下っているようだ。光の筋は、ずっと先の下流までつづいていた。
桟橋に着くと、人垣の中から町長がやってきて、お館さまに向かってお辞儀をした。
「これはお館さま、お勤めご苦労さまです。さ、どうぞ、こちらにおいでください」
町長が先に立って一行を案内した。2隻の平底船がつけられていた。それぞれに2人の船頭が、長い竹竿をもって待っていた。その横に、車で先に来ていた俊信がいた。
和泉家の人々は、二手に別れて船に乗り込んだ。貴志は教授のあとに続いて船に乗ろうとしたが、そこに昭信老人がいるのに気づき、フンとそっぽを向き、もう一方の船のほうに行った。そちらには、お館さま夫婦と町長、それに秀信夫妻が乗っていた。
船は川の斜め上方へ進んだ。流れは穏やかだった。船頭たちは川の流れの中央付近で船をとめ、錨を川底に降ろした。
それぞれが灯籠に火をつけ
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