(3)

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3人は穴のなかに入っていった。
貴志が先頭を歩いた。階段は狭くて湿っぽく、滑りやすかった。懐中電灯で暗闇を照らし、かがむようにして慎重に階段を下りた。
途中でアッと声がして、一郎が足を滑らせて尻もちをつき、貴志のほうに滑り落ちてきた。貴志はかろうじて、年配者の重い体を受けとめた。
「お父さん、ぼくを押しつぶすつもりですか。滑りやすいから、気をつけてください」
「まったく、いまいましい階段だ」
一郎が痛そうに尻をさすった。懐中電灯の光を当てると、ズボンの後ろに染みがついている。
「あーあ、こんなに汚れちゃって――」
貴志は汚れを落とすように、大きな尻を叩き、揉みもみした。ほどよい弾力があって、触り心地がよかった。
一郎の声が聞こえてきた。
「おい、いつまで私の尻を触っているんだ」

階段の下に達すると、洞穴は横に伸びていた。どうやら人工的に掘られた通路らしく、太い松の丸太組みで、壁と天井が支えられていた。空気は湿っぽく、微かに風の流れが感じられた。
秘密の通路を歩いていると、ふいに天然の洞窟に合流した。歩いてきた通路より広く、底には水が流れていた。
貴志は迷わず上流のほうへ進んだ。地面はのぼり勾配になり、先に進むにつれて、勾配はきつくなってきた。
急勾配の岩壁に、鉄の鎖が取りつけられていた。かなり古いものらしく、鎖の表面はじっとりと濡れて黒ずんでいた。
貴志が鎖を引っ張って強度を試していると、一郎が心配そうに言った。
「おい、大丈夫か。かなり古そうだけど――」
貴志は一郎の太い腹まわりを見て、肩をすくめた。
「じゃあ、お父さんは最後にのぼってください」
岩の斜面は登りにくかった。水が岩の表面を流れ落ちて、靴が滑りやすかった。
鎖を伝って5メートルほどのぼると、上の岩棚についた。懐中電灯で下を照らしてやると、池内老人がのぼってきた。老人は意外にも敏捷だった。
次にその倍の時間をかけて、一郎がおっかなびっくり登ってきた。一郎は岩棚に着くと、それだけで息を切らしていた。
「さあ、行きますか」
一郎がまだ喘いでいるのにかまわず、貴志は先に進みだした。少し行くと、洞穴は二手にわかれていた。前方から滝の音が聞こえていた。貴志は気づいた。昨日、暗闇の奥から出てきたところだ。彼は確信を持って、まっすぐの通路を進んだ。

ようやく滝の洞窟についた。貴志は地面を懐中電灯で照らした。
「ぼくたち以外にも、だれかがここに来たようですね。ほら、この足跡は新しい――」
一郎がかがみこんで、足跡を調べた。
「たしかにそうらしいな。これは私たちのものではない。おや、これは」
彼はひとつの足跡を指差した。「大橋さんが襲われた夜、通路にあった靴跡に似ている」
その靴跡のサイズは小さかったが、横幅が広いように思えた。
3人は洞窟を調べた。水の落ちる開口部の右手に、通路らしい暗がりがあった。明かりを向けると、通路は1メートルほど奥で行き止まりになっていた。通路いっぱいに、大きな岩が立ち塞がっている。
その岩を調べると、地面から1メートル半ほどの高さのところに、和泉家の紋章が彫り込まれていた。火の玉が三つ巴になった紋だ。
「池内さん、これは和泉家の紋章でしょう?」
貴志が聞くと、池内がやってきて、不思議そうにその紋を見た。
「たしかにそうじゃが、なんでこんなところにあるのでしょう?」
「案外、嘉信が彫らせたものかも知れませんよ」
貴志は言って、岩の表面を子細に調べた。
表面は平らに削られていて、どこにも石を組み合わせた切れ目はなかった。そして、周囲はゆるく湾曲して、洞窟の壁や地面に食い込んでいる。通路をふさぐこの大岩は、完全にひとつの塊なのだ。

貴志はためしに岩盤に手をかけて、力を込めて押してみた。岩はびくともしなかった。
「窮せしときは竜神の帳を開き、偽りの門を叩け。さらば道は開かれん」
貴志はつぶやいた。
それを聞きつけて、一郎がけげんな顔をした。
「なんだ、それは?」
「嘉信の日誌の最後にあった書です。竜神の帳というのは、あのことだと思います」
貴志は、水の流れ落ちる開口部を指さし、ついで岩に向き直った。「それに、偽りの門はこの岩のことだと思うんですが」
「じゃあ、この大岩の先に、まだ通路があるってわけだな」
「かも知れませんが、この岩をどかすような仕掛けは、どこにも見当たりません」

一郎はあごに手を添えて考えていたが、思い出したように言った。
「それにしてもきみは、青雲荘からここまで通路がつながっているなんて、どうして知ったんだ」
「確信があったわけじゃありません。前に吉田さんが言ってました。夜、天守閣からこちらのほうを見ると、竜神の滝のあたりに光が見えたって。それに池内さんに聞いた加奈子さんの言葉、だれかがこの庵に来ている、というのが結びついたわ
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