(4)

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大橋が救急車で運ばれたあと、警察は屋外の足跡や指紋採取をしだした。屋敷の人たちは仮眠をとることにしたが、藤沢警視は警察に付き合っていた。
貴志はあまり眠れなくて、結局、明け方5時半頃に起き上がった。藤沢兄弟は服を着たまま、布団に寝ていた。
顔を洗ったあと屋敷内をぶらついたが、昨夜いた警察官たちは引き上げたようだ。台所のところで、長男夫人の千佳子が現れて、言葉少なに挨拶すると炊事に取り掛かった。
貴志は勝手口から下りて、大橋が襲われた場所を見た。通路のコンクリート床にはまだ血の染みがあって、昨夜の惨状を生々しく伝えている。
蔵のほうを見たとき、なにかが目に留まった。近づいて見ると、蔵の扉の隙間から庭の葉陰へと、小さな蟻の行列ができていた。蟻たちはご飯粒を運んでいた。そのうえ、普段なら見過ごしてしまうだろうが、床に数滴の蝋が付着していた。おそらく、蝋燭から垂れたものだろう。

いつもより早い朝食後、屋敷内の人たちは全員、居間に集められた。警察による事情聴取のためだ。
警官はふたりいた。ひとりは加奈子の殺害事件の事情聴取で、貴志のところにも来た刑事だった。もうひとりは、団子鼻の下に髭を生やした50歳前後の熟年男で、警官にしては背が低かった。
貴志は寝不足で、あくびをかみ殺しながら、集まった人たちの顔を眺めた。
一番しっかりしているのは、和泉夫人だった。彼女は背筋をまっすぐに伸ばして、毅然とした態度でソファーに座っていた。その背後に、執事の渡辺がかしこまって立っている。大橋に付き添って病院まで行った彼は、さすがに疲れた表情をしていた。
長男の秀信夫妻は、対照的な表情をしていた。夫の秀信が気も動転して、心ここにあらずといった表情をしているのに比べ、夫人の千佳子は冷静で、心の読み取りにくい表情をしている。
次男の俊信は、どことなく落ち着かなくて、いらいらとしている様子だった。彼は部屋の隅に立って、煙草をたてつづけに吸っていた。
神戸から来た老夫婦は、ソファーの片隅にこぢんまりと身を寄せ合って座っている。昨夜は陽気だった和泉昭信も、今は不安そうな表情をしていた。

熟年の警官が、みんなの前に立って、のんびりとした調子で話しだした。
「みなさん、朝早くからご迷惑をおかけします。私は県警本部から参りました、警視の葛城です。一昨日の殺人事件を担当しております。横尾刑事は、すでに皆さんにお会いしていますね。
これから皆さんに、昨夜起こった事件で、何かお気づきのことがあれば、お聞かせいただきたいと思います。また、一昨日起こった殺人事件についても、何かご意見がございましたら、遠慮なくおっしゃって下さい。
本来なら、おひとりずつ、お話を伺うべきでしょうが、このお屋敷には、たくさんの方がおられます。ですから時間節約のため、こうして皆さんにお集まりいただきました」
彼は和泉夫人のほうを見た。「初めに、奥さまからお聞かせ願えませんか。昨夜、目を覚まされてからのことを、お話しください」
和泉夫人は、心配そうに言った。
「あの、その前に、大橋の容態を教えていただけませんか。病院に行った渡辺も、状況はよく掴めていないようですから」
「被害者は命に別条ない、と報告をうけております。もっとも、精密検査はこれからのようですが」
葛城警視は簡潔に言った。

夫人は両手を重ねあわせて、落ち着いた口調で話しだした。
「私、昨日の法事でとても疲れていまして――疲れていると、睡眠が浅いんですの。それで、トラの吠え声がしたので、目が覚めました。トラはすぐ鳴きやみましたが、気になったので、部屋を出て台所まで行きました。そうしましたら、台所の窓の外に明かりがちらついていまして――。
私はもうびっくりしてしまって――恐くなって、大橋を起こしに行ったのです。大橋は、自分が様子を見てくるから、奥さまは屋敷の中で待っていてくれ、と言いまして、お勝手口から外に出ました。
それがまさか、こんなことになるなんて――。今思えば、行かせなければよかった、と後悔していますわ」
葛城警視が訊いた。
「台所から明かりを見たとき、人の姿は見えませんでしたか?」
「それが、窓の下半分は型ガラスなものですから。明かりがちらついているくらいしか分かりませんでした」
「大橋さんが外に出ているとき、あなたはどこにおられましたか?」
「それが――」
夫人は後ろにいる渡辺を、振り仰いだ。「ちょうど渡辺が起きてきたので――彼の部屋の前で、お話をしました。それから、ふたりして台所に行きました」
「その間、なにか物音でも聞こえませんでしたか?」
夫人はちょっと考えた。
「とくに何も聞こえませんでしたわ」
「奥さまが目を覚まされたのは、何時でした?」
「1時半ごろでした。あの、私、目がさめたとき、時計を見たのです」
葛城はう
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