(1)
貴志たちは6時に起こされた。これで3日つづきの早起きだった。
祭事に参加するメンバーは、食堂で早々の朝食を済ませた。どことなく緊張した雰囲気があった。池内夫人と加奈子も無駄な口を利かず、いそいそと給仕をしていた。
屋敷を出ると、門の前に年配の男たちが集まっていた。全部で7人いた。いずれも由緒のありそうな顔立ちをしている。和泉嘉信を支えた7人の武将たちの末裔だ。その中に、きのう露天風呂で一緒になった、吉田の姿もあった。
彼らは和泉親子に挨拶をすると、お館さまを先頭にして、黙々と歩きだした。一郎はカメラを首からぶら下げて、一行から少し離れてついてきた。
早朝の空気は、真夏だというのにひんやりとしていた。
皆について歩きながら、貴志は肩透かしを食わされた気分だった。もっと古式豊かなものを想像していたのだ。ところが男たちは、半袖シャツにスラックス姿のラフな服装をしている。貴志もジーパンだけはやめてくれ、と言われただけである。
「嘉信祭の時には、何か奇跡が起こるって言い伝えがあるんだ」
俊信が振り返って、貴志にささやいた。「今日は、なにが起きるかな?」
貴志は太田の言っていた、江戸時代の山焼きの話を思い出した。
「俊信さんは、奇跡を信じているのですか?」
貴志の問いかけに、俊信はニンマリとした。
「信じてはいないが、見たい気持ちはあるよ」
そのとき、兄の秀信がたしなめるように振り返った。貴志と俊信は顔を見合わせて、肩をすくめた。
一行は青雲荘の門のところにやってきた。鉄扉の鍵はすでに開けられていた。
全員押し黙ったまま、奥に続く石段を歩きだした。まもなく石段は平らな小路に変わり、右に曲がった。道の両脇は鬱蒼とした竹笹が茂っていた。
少し行くと庵が見えてきた。上から見たときと、印象が違っていた。想像していたより、広い空地だった。三方を岩の直壁に囲まれ、別世界のような雰囲気があった。
手前に小川のせせらぎがあり、小さな石の架け橋があった。橋を渡ると、白い石ころの転がる川原に出て、右手の小高い台地に、茶室風の建物が建っていた。
川原の先に、滝があった。とうとうと水が流れ落ち、下から見上げると、滝は高くそびえ立って見えた。
まわりには水の音が満ちあふれていた。水面を打つ滝の音に、小川のせせらぎが入り交じり、遠くの木立からセミの声が遠慮がちに聞こえていた。それでいて、妙に浮き世離れした静けさがあった。
一行は、滝に面した庵の縁側に向かった。
池内老人が先に来て、雨戸を開け放っていたので、内部の間取りがよくわかった。床の間のある4畳半の茶室と、囲炉裏のある10畳ほどの板の間。この二間に面して、縁側と水屋があった。木部は歴史を反映させて、くすんだ灰色をしている。
縁側の上には、きちんと畳まれた白いバスタオルが並べられていた。
庵の右手の敷地に、低い石柵に囲まれた墓があった。和泉嘉信の墓だ。墓石は滝のほうに向かって立てられている。その前に、今朝供えられたみずみずしい草花があった。
まずお館さまが、墓の前で両手を合わせて拝礼した。その背後では、男たちが一緒に手を合わせた。
拝礼がすむと、男たちは縁側で服を脱ぎだした。貴志も皆に倣った。彼の横では、教授が気恥ずかしそうな表情で、ズボンを脱いでいる。
藤沢警視を除いて全員、一糸まとわぬ裸になった。
年配者たちは前を隠しもしないで、ごく自然に振舞っている。貴志は嬉しさと幸せ感でいっぱいだった。なにしろ年配者たちの裸体が、目一杯に広がっているのだ。いずれも目移りして困るほど、素敵な裸ばかりだ。
とくに、想いを寄せる教授の裸体は、ひときわ目を惹いた。ほどよく脂肪の付いた肉体は、健康的な張りがあって、クリッとした丸っこいお尻が可愛らしかった。見ている貴志は、若い力が反応するのを隠すのに苦労した。
それに教授自身も貴志の逞しい裸を見て、動揺しているようだ。頬を赤く染めている。
お館さまを先頭に、一行は水の中に入っていった。冷たい水だった。
貴志が水に入ったとき、背後でフラッシュが閃いた。振り返ると、藤沢警視がカメラをかまえて、こちらを写していた。
(いやらしいおっさんだぜ。ぼくの裸を撮ったな――)
貴志は警視をにらんだが、無視することにした。
緑の水面に、年配の男たちの白い肢体が映えた。水が腰のところまでくると、彼らは肩や胸に水をかけて、それぞれに体を清めだした。
早朝の山間でヌード姿の男たちが水浴びする姿は、どことなく浮世離れした光景だった。彼らは身を清めおわると、水からあがった。
めいめいが濡れた体をバスタオルで拭いて、服を身につけおわったときのことだった。
突然、滝の水音が大きくなった。振り向いた彼らは息をのんだ。水の流れが何倍にも膨れあがって、滝を落下してきたのだ。
次からつぎと、大量
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想