大江戸男色模様(1)

(一)

『江戸の色道』(渡辺信一郎著)のまえがきに、「大悦」と「天悦」について述べている。
江戸時代の色道は、「色道二つ」と認識されていた。つまり女色と男色である。
そして『江戸の珍物』という古書には、「女色を天悦、男色を大悦という。天悦は二人悦、大悦は一人悦の意なり。僧侶の隠語」とある。
男色は、する側だけが悦楽を得るが、される側は苦痛に耐えなければならない。そこで一人だけが悦楽を受けるので「一人悦」とし、「一人」を合体させて「大」の字を当てはめたのである。
女色は「二人」を合体させて「天」を当てはめた。
つまり、江戸の性愛文化は、この「大悦」と「天悦」の二道によって支えられていたのである。

平安時代の昔から、僧侶や貴族の間に浸透した男色文化は、新たな権力者となった武家社会にも広がった。そして江戸時代に入ると、一般庶民も男色を楽しむようになる。
つまり、戦乱が治まり、貨幣経済が発達して庶民の生活が安定してくると、浮世草子などの読み物や浮世絵が流通し、一方で歌舞伎や遊郭が繁盛した。
まさに豪華絢爛たる江戸の性風俗が醸成されていったのである。
そして男色史上、特筆すべきは、男娼の登場である。男色を専業として金品を受け取る、男娼という職業が現われたのだ。
その土壌となったのが、10代の少年たちを中心とする若衆歌舞伎である。
歌舞伎は大衆相手の出し物であったことから、その舞台は男色相手の張り見せという側面を持つようになる。それが陰間買いに繋がったのだ。
この若衆歌舞伎も風紀紊乱の要因とみられて、幕府は何度か禁止令を布告したが、あまり効果は得られなかった。というのも、売り手側もあの手この手と品を変え、いっぽうで陰間茶屋も営々として存続した。
陰間茶屋で有名な町は、江戸では堺町、芳町、禰宜町、浅草、芝神明、湯島、目黒。大阪では道頓堀、京都では宮川町と石垣町だった。
この茶屋を訪れる客は多種多様である。当時の浮世草子を見るに、僧侶と武士が上得意だったことは確かだが、富裕な町人をはじめ農民や漁師、職人、きこりなどの庶民も訪れていた。



男色好きの在野の著名人としては、井原西鶴や平賀源内などがいる。
『好色一代男』を書いた井原西鶴は、男色をたしなんだ作家であるだけに、男色をテーマにした本も書いている。
『西鶴置土産』に収録された中で、「女郎がよいといふ野郎がよいといふ」という話は、男があれこれ思案して結局、陰間を買うという話である。
『武家義理物語』では、母親公認の衆道の世界が綴られている。ほかに『男色大鑑』『武勇伝来記』などがある。
平賀源内は『男色細見三の朝』を著して、男色の醍醐味をたたえ、その未経験者を、「此道の味ひを知らざる愚痴の衆生」とまで侮っている。

また、俳聖・松尾芭蕉にも男色のうわさがつきまとう。
彼が28歳で三十番の発句合わせの判定をしたとき、二句の勝負を判定して、「われもむかしは衆道すきのひが耳にや」と批評している。「むかしは衆道すき」というのは、君臣を超えた友情で結ばれていた藤堂良忠(24歳で死去)のことではないかと推測されている。
江戸を出たあとの芭蕉にも男色のうわさはあり、その相手は愛弟子の杜国と越人である。とくに越人は「男ぶり水のむ顔や秋の月」と詠まれるほどの美男子だったという。
『笈の小文』(おいのこぶみ)は芭蕉が、江戸から明石までを旅したときの紀行文で、鳴海から伊良湖崎までを越人と、伊勢から明石までを杜国と共にしている。これを男色関係の男二人の旅日記として読むと、また一段と趣が出てくる。
吉田という所で越人と泊まったとき、芭蕉は「寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき」と意味深な句を詠んでいる。
杜国と伊勢で落ち合ったときは、杜国のことを「かのいらご崎にてちぎり置きし人」と書いている。また、そのとき二人は笠の裏側に、「乾坤無住同行二人」と落書きしている。「安住する場所はどこにもない。ただ私とお前、二人がいるだけ」くらいの意味だが、これも意味深である。
ちなみにこのとき、芭蕉43歳、杜国30歳くらいのときだった。

ここでひと休みして、男のお道具について触れてみよう。
初夢で縁起がよいとされる言葉に、一富士二鷹三茄子というのがある。
『隠語大辞典』には、これを男陰の品等という説あり、と書かれている。
つまり、「色白きこと富士の山巓の如きが第一位であり、雁高が第二位、色黒きこと茄子の如きは第三位」となるのである。
ほかに、江戸時代の艶本『女大楽宝開』に出てくる、男性器のランク付けも記載されている。
「まらに十の異名あり、一麩二かり三反り四傘五赤銅六白七木八太九長十すぼといふ」とある。
一位の麩(ふ)は、水を吸ったように大きくも小さくもなるマラを指しているのだが、じゃあフニャチンじゃないの?と筆者は思ったりもする。

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