(3)

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屋敷に戻ると、和泉は自分の家族を3人に紹介した。ちょうど夕食前だったので、家族は全員そろっていた。
和泉夫人は60過ぎの、いかにも上品に齢を重ねてきたような女性だった。品の良さだけでなく、彼女には内面からにじみ出てくる暖か味があった。
同居している長男の秀信は、藤沢兄弟にむかって丁寧に頭を下げ、愛想よく貴志に笑いかけた。人好きのする顔をして、父親より小柄で、40歳にして早くも中年太りが始まっている。
それにしても、息子を紹介するときの和泉老人の口調が気になった。どことなく冷ややかだったからだ。
秀信の妻、千佳子は、ほっそりとした知的な美人だが、あまり感情を表に出さず、冷たい印象を受けた。口数が少ないが、ほんとうは気性の激しい女性ではないか、と貴志は思った。
彼らには小学校に行っている、男の子と女の子がいた。ふたりとも利発そうで、両親に似て、上品な顔立ちをしている。
父親に呼ばれて屋敷にきていた長女の敬子は、よく日焼けして活発な女性だった。彼女からは歯切れのよい言葉が、ポンポンと飛び出した。今は温泉街の上のほうにある、牧場に住んでいた。
彼女の夫、楠部孝夫は、敬子同様よく日焼けして、がっしりとした体格をした朴訥な感じの男だった。孝夫は和泉の経営する酪農場で働いていて、敬子に見初められたようだ。
和泉の話によれば、孝夫は秀信と同い年で、流鏑馬の名手だという。
和泉家にはもうひとり、俊信という息子がいて、東京の銀行に勤めている。35歳になるがまだ独身で、明日、郷里に戻ってくると言う。

「皆さん、どうです、ちょっと町に出てみませんか?私の行きつけのスナックがあるんだが」
夕食後、お館さまが3人を誘った。
「せっかくですが、私は遠慮します。今回の休暇をとるために、この数日間、仕事でろくに睡眠もとっていませんでしたから」
藤沢警視が申し訳なさそうに言った。
それを聞いて、貴志は胸の内でほくそ笑んだ。
(これで先生と二人きりで、じっくりと愛が語れる)
貴志は藤沢教授に目配せして、お館さまに言った。
「じゃあ、ぼくたちがおつきあいします」
その目つきに気づいて、警視があわてて言った。
「ちょっと待て。気が変わった。私も行く」

その店は緑あふれる公園の一角にあり、大きな窓ガラスから庭園灯に照らされた樹木や花が望める、洋風の洒落たクラブだった。
木と鋳物を組み合わせた円形のテーブルに4脚の椅子が配され、内部壁面に沿ってカウンターがある。テーブル席に数組の年配客たちが座っていた。
彼らはお館さまの姿を見て、わざわざ立ちあがって挨拶した。お館さまもそれに応えて、丁寧に挨拶を返した。客たちのおっとりとした物腰からすると、おそらく町の名士たちが集まる店なのだろう。
お館さまは、カウンターの一番奥の席に腰かけた。どうやら彼のお気に入りの席らしい。貴志が教授の横に座ろうとすると、警視がふたりのあいだに割り込んできた。
「マスター、例の若者だ。それに彼のお知り合いのご兄弟」
お館さまが店のマスターに、3人を紹介した。白髪スマートな老人で、英国紳士風のダークスーツを着ていた。老人は上品に微笑みかけて、貴志に言った。
「あなたのことは、お館さまからよく聞いています」
「どっちみち、よくないことでしょう?」と貴志。
マスターが品よく笑った。
「とんでもございません。お館さまは、あなたのことをすごく誉めておられました。いまどき珍しい、よくできたお方だって」
「口は悪いけどね」
お館さまがつけ足した。
「あ、その一言が余分なんだよ、爺さん。それさえなければ、愛すべきお爺ちゃんなんだけどなあ」
マスターが微笑みながら言った。
「ひょっとして速水さんは、お館さまのご親戚の方ですか?」
「違うけど、どうしてですか?」
「どことなくお館さまに似ていらっしゃるから。お鼻と口元のあたりがそっくりですよ」
貴志は、お館さまの顔を観察するように見た。
「マスター、似てないですよ。ぼくはそんなに好き者でもないし――」

そのとき、和泉老人の横に座る英二が言った。
「私も似てると思うな」
英二は、お館さまの顔をちらりと見た。「初めてお館さまにお会いしたとき、てっきりタカシの親戚の方だと思ったくらいだ。でもよく見ると、タカシにはお館さまのような上品さが欠けてるね」
「先生、お尻を叩きますよ。ぼくが学園の貴公子と呼ばれているのを知らないんですか」
それまで黙ってウイスキーを飲んでいた警視が、ボソリと言った。
「タカシくんに品がないというのは、私も同意見だ」
貴志はムッとして警視を見た。
「まったく兄弟して、口が悪いんだから。爺さん、どう思う」
お館さまは、おっとりとほほえんで、グラスを口につけた。
「やっぱりこのウイスキーはうまいな。マイルドで、口のなかでフワーッと暖かいものが広
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