(2)内村陽三65歳

久しぶりの好天気に、内村陽三は朝からアパートを出た。
特に目的がある訳ではなかった。
ただ休みの日に、ひとりきりで家に居ることが鬱陶しいだけだった。昨日、妻の一周忌と義父の49日の法要を、一緒にやったばかりだ。

陽三は元警察官で、副署長までやった経歴から、今は大型ビルの警備主任をしている。給料はそこそこ良い。再就職先としては恵まれたほうだ。
彼は若い頃、柔道をやっていただけあって、胸も腰も肉の厚い、恰幅の良い体つきをしている。そして見るからに、実直そうな顔つきだ。
一年前、妻が病死したとき、陽三の生活は一変した。子供のいない陽三は、82歳の義父とふたりだけの生活を始めた。

その義父が、夜中に陽三の蒲団にもぐり込んできた。
湿ったなめらかな温もり――義父の慣れた口淫に、禁欲していた陽三は、またたく間に高みに追いやられた。
それだけでは無かった。義父は下腹部をむき出しにすると、陽三の腹に跨ってきた。再び湿ったなめらかな温もりに包まれた。
今度の方がもっと刺激的だった。全長をぴっちりと押し包んで、締めつける感触。そして久しぶりの射精――。



その夜を境に、陽三は男色の世界にのめりこんだ。妻のいない寂しさを紛らわすように、毎晩のように義父を抱いた。
義父はとても80過ぎとは思えない、しなやかな肉体をしていた。
ひとつ布団の中で素っ裸になって、おたがいのぬくもりと柔らか味を共有した。逞しさとしなやかさ、素朴としたたかさが溶け合い、残り火を掻き立てるように交わった。
義父との交わりは、陽三の外見にも影響してきた。重厚でエネルギッシュな身のこなし、血色のよい頬と輝く瞳。内村陽三は、地味な男から、精力的な男に変身していた。
しかし、新たな生活は、長続きしなかった。この春先、風邪をこじらせた義父が、帰らぬ人となったのだ。

駅前の自販機コーナーで、ペットボトルのお茶を買おうとした陽三は、小銭入れの底に錠剤が一粒入っているのに気づいた。勃起補助薬のシアリスだった。小銭入れは義父の形見だったので、義父が入れたまま忘れていたのだろう。
ふと義父の顔が浮かんだ。毎晩のように求められ、陽三が勃起不全に陥りかけた時だった。どこから入手したのか、義父はシアリスの錠剤を手渡した。
「これ一錠でグンと立つ。しかも効き目は36時間だ。でも高いんだぞ、1粒で2千円以上する。心して飲めよ」
服用して1時間後、確かに信じられないほどの効き目だった。陽三は青春時代に遡って、義父の腰が立たなくなるほど悦ばせた。
その義父が死んで、もはや男色とは無縁と思っていた矢先の一錠だ。彼は錠剤を捨てようとして、義父の言葉を思い出した。――高いんだぞ。心して飲めよ。
(勃たせる必要もないけど、催淫剤じゃないし、まあいいか)
陽三は、捨てようとしたシアリスを口に入れた。
18/06/07 09:45更新 / 神亀

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