お仲間から聞いた話である。
健ちゃんは高校生のとき、優しい目をした中年男性と恋におちいった。人目を忍んで逢瀬を重ね、束の間の快楽に浸るようになる。ところがある日、約束の場所に行くと、年配の恋人は来ず、代わって現れたのは実の父親であった。
あとはよくある話。父親にこっぴどく叱られた健ちゃんは、屈辱感に打ちひしがれ、年上の恋人は、彼の前から姿を消してしまう。
しかし、これには後日談がある。
30年後、健ちゃんは父親の葬式の場で、老いた初恋の男と再会する。そして、驚くべき事実を告白された。なんと男は、健ちゃんの父親と長年に渡って情を交わしていたのだ。それも始まりは、健ちゃんと別れた時からだと言う。
(1)
木内俊郎が生まれ育った町は、都心から電車で1時間ほどのところである。その町に、父の代から贔屓にしている仕立屋がある。
父の死後、残された母の面倒を見るために、家族ともども実家に移り住んだ俊郎は、その仕立屋を利用するようになった。
親子ふたりで経営する、小ぢんまりとした店だった。そしてまた店の親子も、小ぢんまりとした体つきをしている。
店主は70代前半だが、年齢を感じさせない艶やかな顔をして、思わず抱きしめたくなるような可愛らしい老人だ。背丈は150センチそこそこ、円く禿げ上がったおでこは、きわめて肌つやが良い。
その息子は40代半ば、父親同様、丸みをおびた体型をして、ぽっちゃりとしたお尻が可愛らしい。
俊郎が、この仕立屋の主人に男色指向があると気づいたのは、夏用スーツを作りに行ったときだった。
まず生地を選び、そのあと身体のサイズを測った。店の主人が布製の巻尺をもって、俊郎のサイズを測りながら数値を読み上げ、それを息子が用紙に書き留める。
俊郎は、肩幅や首の太さを測る主人の背丈にあわせて、すこし膝を曲げてやった。
胸囲や胴回りを測るとき、主人は俊郎に抱きつくようにして巻尺をまきつけた。俊郎の身体に触れるのが、必要以上に長い気がした。
すぐ目と鼻の先に、可愛らしいおでこがある。初心っぽい小造りの目鼻立ち、血色の良いなめらかな頬――かすかに化粧品のいい香りがしている。
俊郎は、思わず抱きしめて、艶やかなおでこに口付けする誘惑に駆られた。その欲望をぐっと抑えて、店の主人に話しかけた。
「ウエストは余裕を持たせてください。どうもこの歳になると、年々腹が出て、すぐ穿けなくなります」
「はい、承知しました。でも木内さまはそんなにお腹も出ていないし、ご立派な体格をされていらっしゃる。うらやましいかぎりです」
「そうでもない。もう55歳だ、あちこちガタがきていますよ」
「55歳ですか。私より17歳もお若いですね」
「ほう、ご主人はそんなお歳ですか。てっきり、60代の前半かと思っていました」
お世辞だと分かっているのに、仕立屋は恥ずかしそうに頬を染めた。
仕立て屋のうぶな仕草に、思わず頬擦りしたくなる。それに先ほどより、器用に動く小さな手が気になっていた。
ふっくらとして、器用そうな指。その指がズボンの合わせ目にもぐり込んで――つい、あらぬ妄想にかきたてられる。
股下の長さを測っていた主人が、驚いたように手をとめた。
妄想に反応して、ズボンの中身がふくらんだのだ。ステテコを穿いていたので、多少の抑制効果はあったが、それでもふくらみの変化は隠せなかったようだ。
そのときの、仕立屋の反応――ズボンのふくらみを見て、急に落ち着きをなくし、唇が渇くのか、しきりに舌先で湿らせる。作業が終わったあとも、ときおりこちらの股間に目をやる。
経験豊富な俊郎には、仕立屋の仕草が何を意味するものか、一目瞭然だった。
仕立屋の主人に、男色指向があることを確信した俊郎は、慎重に策をめぐらせた。
単刀直入に事を進める方法もあったが、俊郎は回り道をしてでも、じっくりと搦め手から攻めるほうが好きだった。そのほうが、事の成就したときの悦びも大きい。
とはいっても、店で話ができるのは、仮縫いと、完成したときしか無い。
――で、仮縫いのとき、主人に言った。
「ご主人、いつも商売繁盛でけっこうですね。休みはいつ取っているのですか?」
「近頃不景気で商売のほうはそんなに繁盛していませんが、水曜日を休みにしています」
「じゃあ、皆で集まって何かやるというわけにはいきませんな」
「はあ、もともと無趣味なものですから――たまに、温泉めぐりの旅をするくらいです」
「ほう、温泉めぐりですか。――そういえば、私の親父も温泉が好きだったな」
「――ええ、あなたのお父様とは、よくご一緒させていただきました」
そう言う主人の顔は、昔をなつかしむように亡羊とした表情だ。
「そうですか。私も温泉は好きです。今度いっしょに行きませんか」
俊郎は、主人の腰にそっと手を添えて言った。主人は、はにかむよう
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