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貴史がアメリカのツアープロになって5年目、36歳のときに、彼のプレーは円熟期を迎えようとしていた。その年、彼は神がかり的に勝ち続けた。これまで2回の出場経験がある、全英オープンに向けて渡英したとき、すでに彼はアメリカで6勝していた。
その年の全英オープンは、ロイヤル・セントジョージスで行われた。リンクスコースの中でも名うての難コースだった。
そして試合展開は、近年まれにみる激戦となった。3日目が終わって、上位には、さながら国際色豊かに、日本人の貴史のほかに、英・米・豪の選手がひとりずつ絡んでいた。なかでも英・米ふたりの選手は、世代交代が進んだかのように、20代の新進気鋭の若者たちだった。貴史は彼らを見て、ふと自分の若いころを思い出した。彼らは恐いもの知らずで、失敗を恐れず、積極果敢にホールを攻めていた。

いよいよ最終日の競技が開始された。
貴史は最終組にいた。パートナーは英・米の若い選手だった。
どんよりと曇ったネズミ色の空の下で、息詰まる熱戦が展開された。プレーの進行とともに、トップのスコアは一進一退を繰り返した。
選手たちは、一打一打の神経をすり減らすようなショットの連続に、すっかり疲労困ぱいしていた。
そして、最終ホールをむかえたとき、ギャラリーのだれもがプレーオフを予想した。最終組のうち、貴史ともうひとりが1アンダーのトップ、それに、すでにホールアウトしていた前の組のひとりも、同スコアであがっていたのだ。
貴史は疲労が左膝にきて、足をひきずりながらプレーをしていた。彼にはもはや、ギャラリーに笑顔を向ける余裕すらなかった。ともすれば萎えがちな気力を、奮い立たせるだけでも精一杯だった。

最終ホールは長いミドルホールで、勝負所だった。狙い目はフェアウエー左サイド、そこからだとグリーン右のバンカーと左にある窪みを避けた花道から、グリーンを攻めることが出来る。
それまでドライバーの飛距離で、パートナーふたりにずっと先を越されていた貴史は、そのホールでは一番遠くに飛ばした。しかも狙いどおりに、フェアウエー左サイドにボールは止まっていた。
セカンドショットで、先に打ったひとりが右のバンカーに捕まり、トップ・タイだった選手がピン上、2メートルにつけた。バーディチャンス!
その選手の顔に笑顔が戻って、どうだと言うように貴史のほうを見た。

貴史は150ヤードかなたのグリーンを眺めた。
グリーンの周囲には、大勢の観客が彼のプレーを待っている。旗が揺れていた。上空を見上げると、雲が流れていた。
(感じるんだ。大気の変化――風の流れ――太陽の軌跡を追う芝の向きを。大自然はたえず変化している。その大自然と一体化したとき、きみのプレーは最高のものとなる)
唐突に、マイアミで練習していたころの、トムの言葉が一言一句思い出された。
ボブがささやいた。
「タカシ、勝負はホールアウトするまで分からない。きみもピンにぴったりと寄せてやれ」
「オーケイ、ボビー。一昨年のセントアンドリュースの再現だろう。どんぴしゃりに寄せてやるよ」
貴史はもう一度、遠くのグリーンを見た。
深いバンカーと窪みに挟まれた花道。ゆるやかに起伏するライトグリーンの芝生。風にはためく赤い旗。それらを観察しながら、自分のスイング、ボールの弾道をイメージした。

イメージが合ってくると、彼は大きく深呼吸し、そして構えた。
彼独特の右体重スイングのなかで、白球がはじき出され、グリーンに向かっていった。低い弾道で飛んでいったボールは、グリーン手前でフワッと舞い上がり、カップの手前1フィートのところで弾んだ。
大きすぎる!
ギャラリーの誰もが思った。
そのとき、ピンを通り過ぎてバックスピンがかかり、ボールが止まった。
と思ったとたん、こんどは後戻りしだした。
ボールはカップめがけて転がりつづけ、まるで魔法で引き寄せられたかのように、ピンにあたり、そしてカップの中に消えた。
ギャラリーの間で、どよめきが起こった。
貴史は足をひきずりながら、ゆっくりとグリーンに向かった。グリーン上にはひとつしかボールがない。
そのとき、グリーンサイドの中年男性が教えてくれた、ボールがカップインしたと。
貴史の反応は、小さくガッツポーズをしただけだった。

高山貴史はその年、海外の試合で7勝した。その中には、メジャーのタイトルもふたつ含まれていた。苦手としていたマスターズ、そしてもっとも縁の深い全英オープンでの優勝だった。
その栄光の陰で、悲しいできごともあった。村松博士が急逝したのだ。全英オープンの試合をテレビで見ていて、貴史が優勝したのを見届けた後、静かに息を引き取ったという。享年75歳だった。
いっぽう、もうひとりの75歳の老人、伴邦正は、相変わらずカメラをぶら下げて元気に飛び回っている。
彼は翌
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