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その年の全英オープンは、ひさしぶりにセントアンドリュースで開催された。
1860年に第1回選手権がスタートして以来、過去にさまざまな名勝負が演じられてきたこのコースは、また、厳しい自然風土が長い時間をかけて作り上げた、難コースとしても有名だった。
フェアーウエーは自然のままにうねり、タコ壺バンカーが巧妙に隠され、ラフはヒースの繁る草原そのままだった。唯一、グリーンだけは手入れが行き届いていたが、それもところによっては巨大な面積で、しかもフェアウエーのようにうねっている。
しかし、貴史はこのコースが気に入った。自然をそのまま活かしたレイアウトは、慣れ親しんだマイアミの海浜コースと共通点があったからだ。
まさにあるがままの自然の中でのゴルフ場だった。
彼はこの大会の前に、イギリスでふたつのトーナメントに参加して、ふたつともベストテン入りしていた。調整をかねて気負いがないのが、好結果につながったのだ。それに、結果がよかったことで、疲労もさほど蓄積していなかった。
そしていよいよ、ジ・オープンが始まった。

セントアンドリュースにしては珍しく、好天気がつづいた。
選手たちの多くは、スコアーをぐんぐんと伸ばしていった。そんなことは、このコースにしては珍しいことだった。
とくにアメリカ勢が好調だった。彼らはこの数年、世界の四大選手権で、ヨーロッパやオーストラリア、南アフリカ勢に押され気味だった。それだけに、彼らの気の入れようは並大抵ではなかった。

貴史本人は、初日から手堅いゴルフをやっていた。
彼は、大会前にボブと一緒にコースをじっくりと下見して、二人で話し合って作戦を立てていた。一歩間違えば大怪我のもとになる、地道にやろうと――。
難ホールでは、得意のドライビング・アイアンを多用した。フェアウエーはほとんど外さなかった。そして、このコースのために特訓した、ランニング・アプローチが冴えわたった。
彼は1日目、2日目と着実にスコアーを伸ばしていった。
貴史の活躍に、報道関係者も注目しだした。少し足をひきずって歩く背の高い日本人と、ずんぐりむっくりしたキャディーの姿が、テレビに映る機会がふえてきた。テレビ画面では、二人は仲のよい兄弟のように話しかけ、絶妙のタイミングでクラブを選択し、グリーンのライを一緒になって読んでいた。
3日目がおわり、貴史はトップに並んでいた。
9アンダーのもうひとりのトップは、アメリカの技巧派選手のフェリス。彼は今年のマスターズで優勝していた。そして1打差で、その日猛追してきた、同じくアメリカ人の若いケリー。コンスタントに3百ヤード以上飛ばす、豪打の持ち主だ。彼もすでにメジャーの優勝経験者だった。

貴史はその夜、興奮から寝つけなかった。テレビを見、本を読み、軽い体操をしたが眠れそうになかった。
「タカシ、眠れないのか?」
隣室のドアがノックされ、ボブが声をかけてきた。
「ああ――どうしても明日のことを考えちゃってね」
ボブは部屋に入ってきた。
「前にジャック・二クラスが、同じようなことを言ってるのを聞いたことがあるよ。どんな一流の選手だって、きみの今の状態は、逃れようがないんだな」
「でもぼくは、野球をやっていたときは、よく眠れたぜ。次の日に大事な試合を抱えているときだってね」
ボブはベッドの縁に腰を下ろすと、丸っこい肩をすくめた。
「慣れだよ。それにわたしは野球をやったことがないけど、おそらく集団スポーツと個人スポーツの違いが出るんじゃないかな。ゴルフは選手個人のプレーが、即、試合の結果につながるからね」
「でも野球の試合だって、プレッシャーはあるんだぜ。ここ一番で、ヒットを打たなくちゃならない時なんかね」
「でもタカシのプレーを見ていると、タカシはそのプレッシャーを、いい方向に利用してるじゃないか。そのへんがタカシの、われわれ凡人との違いかな」

ボブは腰をあげた。彼は窓際に歩み寄ると、ガラス窓を開け、下枠に手をかけて外気に顔を突き出した。そして、夜気をかぐように鼻をひくつかせた。
「あしたは天候がくずれそうだね。空気が湿っぽい」
腰を曲げたボブの臀部が、柔らかく膨らんでいる。貴史はボブの後姿を見ていて、性的興奮を覚えた。
彼はボブに声をかけた。
「ボビー――こっちに来いよ」
窓から振り返ったボブは、貴史の思いに気付いた。
「でも、タカシ――明日は試合が――」
「大丈夫だって。すっきりすればよく眠れる」
ボブは何か言おうとしたが、肩をすくめた。それから「その前に、ちょっと体を洗ってくる」とつぶやいて、バスルームに向かった。

「ううっ――いい」
貴史はベッドに仰向けになって、心地よい快感に身を委ねていた。彼の腰にはボブが跨って、豊満な肉体をさらしている。色白、シミひとつなく、体毛の無いなめらかな肉体だ
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