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つぎの年、貴史がプロ野球界に入って3年目のシーズンも、タイガースは準優勝にあまんじた。しかし、老雄、大川監督の率いるタイガースは、着実に強くなっていた。
監督の積極的な若返り策が功を奏して、若手組の選手が育ってきた。チームは、若々しい活気にあふれ、中でも貴史は、昨年につづいて盗塁をふくめた4冠王を獲得していた。
シーズンの間、貴史はゲイルとしめしあわせて、いくつかのパフォーマンスを工夫した。
貴史がヒットで出塁すると、バッターボックスに立つゲイルと意味ありげなジェスチャーでサインを送りあって、相手ピッチャーを混乱させる。そして貴史が盗塁に成功すると、二人はお互いにむけて人差指をさりげなく突き出す。貴史がホームランを打って戻ってくると、二人はホームベース上で向かい合って、腰をくねらせる。
長身の貴史と、でっぷりと太って愛嬌のあるゲイルのパフォーマンスは、タイガースファンの楽しみのひとつとなった。しかしゲイルが年上の男と同棲している、という裏情報を知っているファンの中には、貴史もゲイと見られがちだった。
そのシーズンでヒットしたもうひとつのパフォーマンスは、甲子園球場の、ある音楽好きのスタッフによって考え出された。
貴史が得点のチャンスにバッターボックスに向かうとき、彼専用に作曲されたロック・ミュージックを流すことだった。
エレキギターによるロックの強烈なビートは、総毛立つような興奮と奇跡の予感を観客に呼び覚ました。
その音楽を背景に、貴史がゆうゆうとバッターボックスに立ち、ひと振り、ふた振り、バットを振ると、もうそれだけでファンは総立ちになって熱狂した。なかには、興奮のあまり泣き出す観客もいた。
貴史には、野球に対するゆとりが生まれていた。あいかわらず、積極果敢なハッスルプレーをしていたが、一方では観客を喜ばせる、パフォーマンスも見せる余裕ができていた。
彼の一挙手一投足は、常に見ているファンたちの関心の的だった。そしていまや高山貴史は、プロ入りわずか3年にして、名実ともに、日本のプロ野球界を背負って立つ男になろうとしていた。
来年にむけての契約更改の時期がきた。
その時期は、各球団のフロントにとって頭の痛いときである。
とくに2年つづけて準優勝したタイガースは、選手たちが大幅な俸給アップを期待していた。ケチで名の通る阪神タイガースの首脳陣にとって、これから始まる各選手との厳しい攻防は、胃の痛くなるような思いだった。
今日もきたるべき日に備えて、オーナーの八馬会長と小津球団社長、経理担当重役、それに参考人として大川監督が加わり、4人は密室会議を開いていた。
「いくら2位になったからって、優勝じゃないんだ。去年と同じように大盤振舞すると、きりがない。球団がパンクしちまあ」
釘を刺すように、八馬会長が第一声をあげた。
小津社長が小さくうなずきながら言った。
「わかりました。でも会長、うちは若い選手が多いこともあって、億を超える選手は二人しかいません。データによれば選手の人件費は、12球団中10番目ですから、それなりの評価はしてやらないと」
「それはわかっている。確かに球団の売り上げも、去年より20億は増えているからな。功績のある選手たちには、それなりの評価はする。しかし、節度あるアップだ。球団の将来のためにもな。ところで大川くん、なにか意見はあるかね」
それまで黙っていた大川監督は、慎重な口振りで話しだした。
「個々の選手たちの評価は、本人たちが納得のいくように、きっちりとデータで示すことですね。来年の選手たちの志気にもかかわります。でも――」
大川は言いよどんだ。
「でも――なんだね?」と八馬。
大川は、八馬会長の顔を上目遣いで見た。
「心配なのは、タカです」
「どうして?あいつは金に無頓着だし、去年も一発でサインしたじゃないか?」
「それが――今年はえらく、はりきっているらしいんです。なんでも、去年までは、まぐれ当たりだと陰口を叩かれないために、素直にサインしたんだとか。それでも、去年はシロー選手よりはるかに少ない年俸だったことで、かなり根に持っているようです。それに、あいつは最近、高級マンションを買ったそうですから」
大川の言葉に、あわてたように小津が反応した。
「あ、いや、何かの機会に、わたしの住むマンションの一室が売りに出されているって、高山くんに話したことがありまして――」
八馬は心配そうに、小津と大川の顔を交互に見た。
「あいつ、そんなことを言ってるのか。新人の時の1千万からつぎに5千万、それに今年は倍増の1億だったんだぞ。ほかにCMなんかの副収入を入れれば、20代の若者にしては、とんでもない年収になってるはずだ。
まあ、そうは言っても、今年はタイトルを総なめしたことだし――1億5千万は覚悟しないと
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