(4)
本来はゆっくりできるはずのシーズンオフは、貴史にとって多忙をきわめた。サイン会やテレビ出演、官公庁や民間の催し――貴史はスケジュールの許す限り、それらに出席した。
テレビでは、シリーズ優勝したオリックスのシロー選手と同席することが多かった。2年連続のMVPに輝いた二人は、なにかにつけて対比されていた。芸術的なバッティング技術のシローと、鋭い感性の貴史。
しかしバッティングを除けば、二人は共通した技能をもっていた。ともにピッチャー出身で、足が早く、驚異的な遠投力があり、外野守備でも天性の技術をもっている。
性格的には、共通点と相違点が相半ばした。
似ている点は、二人ともその若さにかかわらず、物怖じせず淡々として、ウイットに富んだ会話ができることだった。
相違点は、シローが私生活においても品行方正で、芸能ニュースのスキャンダルめいた記事が無いのに対し、貴史のほうは――マスコミの憶測が先走ってるとはいえ――女性との噂が絶えなかった。
いずれにしろ、二人は今の球界で、もっとも注目される選手だった。
その夜のプロ野球ニュースに出席したのは、貴史と大川監督だった。
司会はおなじみの川井キャスター。番組がはじまると、川井が軽快な語り口で二人を紹介した。
「今晩のゲストは皆さまお待ちかね、今年惜しくも優勝を逃しましたが、プロ野球を大いに盛り上げてくれました、阪神タイガースの大親分、大川監督と、球界の貴公子、高山選手です。
ところで高山さん、今日はいつもとちがって神妙な面持ちですが、さすがの高山さんでも、監督がおられると意識しますか?」
貴史はまじめな顔で、横の大川をチラリと見て答えた。
「いえ、そんなことは――もともと、根が緊張性なものですから」
「おっと、いきなりジョークが飛び出しました。ところで大川監督、あのヤクルト最終戦の9回、高山選手をピッチャーにしましたが、あれは前から決めていたのですか?」
「ああ、あれなあ。あれはタカのアドバイスによる、破れかぶれの苦肉の策だ。なにせ、他のピッチャーも出しつくしていたからな」
「破れかぶれですか。それにしても高山さん、二人のバッターを連続三振にしとめるとは驚きましたね」
「ぼくの投げるボールがおそすぎて、バッターもとまどったんでしょう」
「あの――高山さん、今日はお加減でも悪いんですか?」
不審そうに川井が言った。
「とんでもない。ただちょっと――」
貴史は、川井を熱っぽい目で見た。「有名な川井さんに再会できて、胸がドキドキしているんですわ。なにせ、マスコミ界の貴公子と呼ばれる川井さんと同席できるなんて、滅多にあることじゃないですから――」
貴史をさえぎって、川井が言った。
「はい、やっと本来の調子がもどってきました。大川監督、高山選手はいつもこうなんですか?」
大川が鼻でせせら笑った。
「ああ、タカが野球そっちのけで、お笑いタレントのまねごとばかりしていなければ、おれも苦労していないよ」
「と言うことは、高山選手は監督の頭痛の種と?」
横から貴史が口出しした。
「あの――川井さん。あなた、可愛らしい顔をして、言うことはけっこう毒を含んでいますね。今日は、ぼくをいじめる番組ですか?」
川井はしれっとして、司会をつづけた。
「とんでもない。では話題をもとに戻しましょう。高山さん、ヤクルト戦の8回、スクイズバントをしましたね。あれもサインどおりなんですか?」
「もちろん、そうですよ。でもあのときは緊張しました。もしもサインを見落としたらと――。実はバッターボックスにはいる前に、監督に脅されていたんです。サインを見落としたら、ぼくのタマを引っこ抜くって」
「ああっ!一部、放送に不適切な表現がありましたことをおわびいたします。でもホームランバッターとして、バントをやることに抵抗はなかったんですか?」
貴史はすばやく返事をした。
「まったくありません。選手は、監督の指示どおりに動くだけですから」
「ハイ、とても優等生的なお答えでした。監督、どうですか?」
「フン、こいつの心の中は、おれがタカのバッティングを信用していないからだ、といまもって根に持ってるんだよ」
「すばらしい師弟愛ですね!」
アナウンサーは、妙にはしゃいで言った。「ところで高山さん、いまや最も注目されている選手の一人になりましたが、成功の秘訣はなんですか?」
「最も注目されてるかどうかは知りませんが――うーん、そうですねえ、ま、控えめな性格というか、自分に自信がないから、絶えず努力してきた結果ですかねえ」
一瞬の間があって、アナウンサーは大川のほうを見た。
「監督は、これまで数多くの野球選手を育ててこられたと思いますが、監督の目から見て、高山さんはどんなタイプの選手なんですか?」
「どんなタイプって言われてもなあ――まあ、神様は
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想