(3)

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セリーグの優勝の行方は、昨年同様、終盤まで混沌としていた。
ヤクルトがトップを走り、タイガースと中日ドラゴンズが2ゲーム差でつづいていた。そして1ゲーム差でジャイアンツ。
タイガースとヤクルトの3連戦は、甲子園で行われた。
タイガースが自力優勝するためには、ひとつも落とせなかった。しかし2試合終わった時点で、1勝1敗。ゲーム差は変わらなかった。
甲子園における最終試合は一進一退をくりかえし、総力戦となった。

貴史は最初の打席で3塁打を放ち、犠打で先取点のホームを踏んだが、そのあとは2打席連続の敬遠にあっていた。
とくに2つ目の敬遠のとき、ヤクルトの野村監督はおもいきった策にでた。
ノーアウト1、2塁で貴史を敬遠したのだ。そのあとヤクルトは、左、右、とピッチャーを小刻みにつないで、とうとうその回、タイガースはノーアウト満塁から無得点におわった。
絶好のチャンスに得点できなかったことで、いやなムードが阪神ベンチ内に広がっていた。しかし、8回の表まではヤクルトの攻撃をなんとかしのぎきった。
タイガースは2対2の同点で8回裏の攻撃に移った。大川監督は攻撃に入る前に、ナインを呼び寄せた。
「いいか、おめえら。去年はいいところまでいったが、ジャイアンツに優勝をかっさらわれた。なにも2年続けて遠慮するこたあねえ。去年のくやしさを思い出してみろ。男ならやってみろってんだ」
円陣を組んで、大川がナインにハッパをかけた。

しかし、タイガースのバッターは下位打線に移っていた。先頭バッターがセンターフライに倒れ、続くバッターもサードゴロ。
しかしバッターの疾走する気迫にあわてたのか、3塁手がボールをファンブルし、きわどくセーフになった。
大川は迷っていた。つぎのバッターはピッチャー。それもめまぐるしい投手交代がたたって、タイガースに残されたピッチャーは、病み上がりでまだ調子の出ていない選手一人しか残っていなかった。
(最終回が勝負だな――)
大川は両腕を組んだ。
「監督、なに迷ってるんですか。ぼくだってピッチャーだったんですよ」
大川の様子を見て、貴史が声をかけた。
「大学の時はな」
「大丈夫だって、今でもピッチング練習は続けているから。1回くらいなら、なんとかなるって。勝負しましょうよ。ぼくまで回ってきたら、なんとかするから」
大川は立ち上がった。代打を告げられた佐々木がバッターボックスに向かうのを見ながら、大川監督がつぶやいた。
「タカ、佐々木が出塁して、万一おめえがサインを見落としたら、タマを引っこ抜くからな」
「大丈夫だって。まかせなさい、じっちゃん」
そう言うと、貴史はバットを持って立ち上がった。その後ろ姿を見ながら、大川はつぶやいた。
「じっちゃん――?」

阪神ファンの願いが通じたのか、佐々木はライト前にクリーンヒットを放った。ワンアウト、1、3塁。そしてつぎの打者は1番の高山。
(最高のお膳立てだぜ)
タカシ・コールを背に受けて、貴史はハイな気分で、打席に向かった。
こんどはヤクルトの野村監督が迷う番だった。これまでは高山を敬遠でしのいできたが、こちらもピッチャーは、あまりあてにできない一人しか残っていない。ここはフォアボール覚悟で、低めの臭いところを攻める以外にない。運良くひっかけさせて、併殺にできればもうけものだ。
彼はピッチングコーチを伝令に走らせた。
1球目、外角低めのボール。キャッチャーが大きくうなずいて、ピッチャーに返球した。
貴史はいちど打席をはずして、3塁コーチボックスをチラリと見た。それから打席に立つと、大きく素振りをくりかえした。
ピッチャーが2球目を投げた。これも外角低め。そのとき貴史が1塁線にバントした。今期、127試合で、王選手の偉大なホームラン記録を塗りかえて、56本打っている貴史が、バントをしたのだ。
ヤクルトの意表をついて、スクイズが見事に決まった。
3対2!
ついにタイガースが1点を勝ち越した。

しかし、ヤクルトチームや観衆の意表をついたのは、それだけではなかった。
最終回の表に、タイガースの残り一人のピッチャーがマウンドに立った。肘の痛みから戦列を離れていて、やっと一軍に上がってきた選手だった。タイガースファンが期待を込めて見守る中、彼はゆっくりとウォームアップした。
ヤクルトの9回表の攻撃が始まった。
1球目、ボール。ヤクルトのバッターは2球目を、バットの芯で捕らえた。ボールは高く舞い上がり、センター方向に飛んでいった。
――ホームランか?
両軍のファンが固唾を呑んで見守る中、ボールはフェンス手前で失速して、センター守備のグラブに吸い込まれた。
ワンアウト!
阪神ファンがドッと沸き立ち、ヤクルトファンがため息を吐いた。
次のバッターに対したとき、ピッチャーは慎重になっていた。センタ
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