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貴史はオールスター後も、快調に打ち続けた。打撃だけでなく、盗塁数もリーグトップを走っていた。レフトの守備にも慣れ、ミスもほとんどなくなった。とくに遠投力がものをいった。何度か大切な場面で、レフトからの好返球で走者が本塁を突くのを刺した。
パリーグではオリックスのシロー選手が、初の4割バッターになるのではないか、と話題を独占していた。彼は貴史よりふたつ年下の弱冠20歳で、今年からシローの呼び名で選手登録をしていた。
貴史の活躍にのせられて、タイガースも好調だった。セリーグの優勝争いは、終盤戦までもつれこんだ。トップを独走していたジャイアンツがもたつく間、ドラゴンズとタイガースが急接近していた。

ついに残すところジャイアンツとタイガース戦の1試合となったとき、上位3チームのゲーム差は僅差で、ジャイアンツが3位のタイガース戦に勝てば、そのまま優勝、負ければすでに最終戦のすんでいるドラゴンズと同率になる。
その大事な最終戦を控えて、タイガースの選手たちは緊張していた。今日勝っても優勝できないことは分かっていたが、自分たちが原因でジャイアンツに優勝させたくなかった。
選手たちは気合いを入れて練習していたが、その動きはすこし固かった。
大川は腕組みをして、自軍の選手たちの練習を見ていた。彼の目にも、選手たちの動きのぎこちなさが映っていた。練習が終わると、彼は選手たちを集めて簡単なミーティングを行った。
「いいか、みんな。おれたちの目の前で胴上げなんか見たくないだろう。頑張れ!と言いたいところだが――」
彼は言葉を区切った。そして元気よく言った。「そんなこたあ、どうだっていいんだ。とにかくおれたちは春先から129試合、戦ってきた。この数年間、下位でくすぶっていたタイガースが、いいところまでこれたんだ。
いいか、今日はその総仕上の試合だ。勝ち負けなんかどうでもいい。だけどな、あとで悔いの残らぬよう、力一杯あばれるんだ。失敗なんて恐れるな。わかったな!」
大川が話し終えると、選手たちの表情に余裕が出てきた。その変化を読み取って、大川はミーティングを切り上げた。

大川監督は満足そうに、部屋を出て行こうとした。そのとき気がついた。
ルーキーの高山が、姿見鏡の前で半身になって立ち、右手を上げてVサインを出したり、左手の拳を突き上げたりしている。
「タカ、おめえ、何やってんだ?」
大川は、高山に尋ねた。貴史が難しそうな顔をして言った。
「あ、監督。ぼく、迷ってるんです」
「何を迷ってるんだ?」
「そのう――今日は、ジャイアンツが優勝するかどうかという試合でしょう。テレビ中継はあるし、全国のファンが見てる。さっき球場の人に聞いたんだけど、5万人以上は来るって――」
「だから、どうしたってんだ?」
「ぼくがホームランを打ったとき、どんなパフォーマンスをやればいいかって、研究してたんです」
「おめえなあ――」
大川はしばし言葉が続かなかった。それから、かろうじて声を出した。「おれにぶっ飛ばされたくなかったら、さっさとグラウンドに行くんだ!」

後楽園のドーム球場で、今年のセリーグ最終戦が始まった。
阪神タイガースのビジター球場であるにもかかわらず、タイガースファンが大勢詰めかけていた。そのことはタイガースの選手たちにとって、大いに励みになるとともに、若干のプレッシャーにもなっていた。
先頭バッターでボックスに立った貴史は、相手ピッチャーを威圧するように睨みつけた。彼の全身からは、満々たる打ち気が放散していた。
1球目は内角をえぐるストレート。
貴史は余裕をもって見逃した。少し遅れて、審判がストライクのコールをした。貴史は審判をジロリと睨むと、素振りをしながらピッチャーを睨みつけた。
2球目は外角へ高目のスライダー。貴史は強振した。ファウルチップ。貴史は舌打ちしてバッターボックスを外した。頭の中は、次の配球の読みで目まぐるしく回転していた。
(ツーストライクだ。1球遊んでくるか?それとも3球勝負か?いずれにしろ臭い球でくるな――)
ピッチャーは大きく振りかぶって、第3球を投じた。
(しめた!絶好球だ)
貴史はフルスイングした。ボールはホームベースの手前で、大きく落ちた。フォークボールだった。貴史のバットがものの見事に空を切った。
空振り三振!
(畜生、これで記録も絶望的か)
貴史はダッグアウトに引き上げながら、自分の不甲斐なさをなじった。

大川は次のバッターを見守りながら、横の席に座る新人のタカが、なにやらぶつぶつ言っているのに気づいた。どうやら三球三振を喫した自分を責めているらしい。
大川はルーキーに声をかけた。
「タカ、なにをぶつくさ言ってるんだ?おめえは思い切りやったんだ。三振なんか気にするな」
貴史が振り向いた。
「でも監督。今の三振で
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