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次の試合から、貴史の打順は1番に復帰した。監督がなぜそうしたのか、打撃コーチの島野のほかには、誰にとっても謎だった。
それはともかく、貴史の調子が上向いてきたのは確かだった。1試合に1本のヒットが2本になり、その延長線上でホームランも出だした。彼はじょじょに本来の調子を取り戻していった。ついには、オールスター戦をひかえた前半戦最後の試合で、3本のホームランを打っていた。
そして、野球選手あこがれのオールスター戦が始まった。

セリーグの総監督は、昨年の覇者、ヤクルトの野村監督だった。ID野球、勝負師、狸親父、さまざまな仇名を持つ野村監督は、オールスター第1戦でも、ファンをあっと言わせる策に出た。タイガースのルーキー、高山貴史を4番バッターに据えたのだ。
しかし、並の新人なら緊張でがちがちになるところだが、貴史は違っていた。最初の打席でランナーを1塁に置いて、いきなりホームランを打った。沸き上がる歓声の中で、貴史は淡々とダイヤモンドを回った。
次の打席では、ピッチャーの意表を突いて、セーフティーバントを試みて1塁に生きた。
その日、貴史は2本のホームランを含む5打数4安打5打点の大暴れをした。7対2でセリーグが勝ち、もちろん貴史は第1戦のMVPに輝いた。
第2戦では、貴史はスターティングメンバーから外された。4番には球界を代表するベテランの落栗選手が入った。
タイガースの活きのいいルーキーを一目見ようと、球場に来たファンはがっかりし、いちようにブーイングしだした。ゲームは、初回に2点入れ、5回に追加点を入れたパリーグがそのまま逃げ切った。
翌日のスポーツ紙には、貴史が試合に参加しておればどうなったか、とかヤクルトの野村監督はこのルーキーがあまり自信をつけすぎて、後半戦で活躍するのを恐れたのだ、とかさまざまな憶測を書き連ねた。
そんなことが影響したのか、貴史は第3戦で、再び4番バッターで出場した。試合は投手戦になった。結局、9回の裏、ヤクルト選手のサヨナラヒットで、セリーグが勝った。
MVPこそ逃したが、貴史はふたたび優秀選手に選ばれていた。彼は、ホームランと2塁打を打っていた。

2試合で賞を獲得した貴史は、一躍スターの座にのし上がった。
入団当初は、名前すら知られていなかった新人が、わずか4ヶ月で、球界のトップクラスの名声を得たのだ。新聞やテレビ、週刊誌が、こぞって貴史の経歴やデータを掲載しだした。貴史に対するインタビューの申し込みも急増した。それに乗せられたかのように、ファンの追っかけが激しくなってきた。
マスコミやファンに対し、最初はていねいに受け答えしていた貴史も、さすがにうんざりしてきた。

ある日、貴史は、大川監督の部屋に呼ばれた。
「どうだい、スターになった気分は」
「冗談じゃないスよ、監督。ぼくは野球選手で、アイドル歌手じゃないんだ。チャラチャラした人気なんて真っ平だ」
「まあ、そう噛みつくな。おれはべつに、おめえをからかって言ったんじゃねえ。それにしても、毎日大変だろうが」
「大変どころじゃない、これじゃあ気の休まる暇もないスよ。あの騒ぎようは異常です。ぼくをほっといてくれって、叫びたい気分ですよ」
「そうかい。おれはおめえのようにスターになったことがないんで、そのへんの気持ちは分からんけど――しかし、マスコミやファンあってのプロ野球選手じゃないか。騒がれてるうちが花さ」
大川は身を乗り出して、貴史の顔をのぞきこんだ。「いいか、そう深刻になるな。みんなに騒がれるのはスターの宿命だ。もっと肩の力を抜いて、自然体で構えろ。バッティングでは出来てるじゃないか。それから、マスコミやファンを味方に引き入れるんだ。彼らを利用するくらいの気持ちでいれば、苦にも思わなくなるさ」
貴史はため息をついた。
「分かりましたよ――それで監督、ぼくになんの用だったんですか?」
「べつに――ただちょっと、おめえの顔が見たくなっただけさ。なにせ、おめえはいまやスーパースター様だ。いつ会見の予約がとれなくなるか分かんねえからな」
言ったあと、大川はほがらかに笑った。

ある日、貴史は新聞を見ていて、彼が陸上競技をやっていた高校時代の写真を見つけた。その横には、ピッチャーズマウンドに立つ、大学時代の写真が並べられていた。彼は怪訝に思った。
(どうして、こんな古い写真を手に入れたんだよ?ひょっとして――)
貴史は、伴の顔を思い浮かべた。

それからしばらく経ったある日、貴史は練習前のひとときを村松と過ごしていた。そのとき、たまたま伴がやってきた。
貴史はさっそく写真のことを、伴に聞いた。
伴はこともなげに答えた。
「ああ、あれね。おまえさんの特集を組みたいって新聞社が言うもんだから、わしの写真を提供したんだ」
「だって、じっちゃん――写
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