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「タカ、きのうは派手にあばれまくったな」
練習前に、買い込んだたくさんのスポーツ紙を見ている貴史のもとに、大川監督がやってきた。
「だから言ったでしょうが。ぼくは本番になればシャキッとするって」
「そうかい。フロックでなければいいがな。ところで、今日のピッチャーは、まだ本調子でないと言ってもエースだ。コントロールがいいから、いやらしくコーナーをついてくるぞ。それに向こうはきのう、ポット出の新人に、いいようにやられたんだ。きょうは厳しく攻めてくるぞ」
「分かってますよ。要するに大振りしないこと。盗塁でひっかきまわすこと。そうやればいいんでしょう」
大川監督は、妙にルンルン気分の貴史の顔をしばらく見つめた。それからフッと溜め息を吐いて、つぶやくように言った。
「そうかい――まあ、そこまで分かってるんならいいが――」
大川監督に約束した通り、その日の試合で、貴史は相手ピッチャーを翻弄した。
まず、第1打席でセーフティーバントを試み、それが見事に成功した。出塁すると、なんなく2塁に盗塁した。2番バッターがセンター前にヒットを打ち、試合開始後、ものの数分でタイガースは先取点を入れた。
その日、貴史はシングルヒットと2塁打を1本づつ打ったが、あとは粘っこくボールを選んでフォアボールふたつ、そして盗塁を4つ試みて、すべて成功した。彼のおかげで、相手投手はすっかりペースを乱され、3対1でタイガースはきのうの雪辱をはたした。
ジャイアンツとの3連戦は1勝2敗だったが、内容的にはむしろタイガースのほうが押していた。
貴史の思わぬ活躍に、狂喜する阪神ファンの熱気が伝わったのか、タイガースの選手たちが発奮したからだ。彼らの動きは溌らつとしていた。とくに昨年台頭してきた、若手選手たちの動きが良かった。
試合数が増えてくるにつれ、大川監督の性格――おおらかで形式にとらわれない自由なやり方も、チームに浸透してきて、いい方向にむかっていた。
大川は選手たちによく言った。
「おめえたちはプロなんだ。おれは細かいことは言わん。自分で考えて、自分にあった方法を工夫しろ。失敗を恐れず、のびのびとやれ。ただしプロの自覚だけは忘れるな。プロの世界は結果だけだ。結果が悪ければ、だれであろうと、いつでも二軍にたたき落とすぜ」
大川は、そのことを言葉だけでなく、容赦なく実行した。レギュラーと思われた中堅選手が、二軍落ちの憂き目にあい、二軍の有望な若手にチャンスが与えられた。
例年になくレギュラー選手の入れ替わりが激しい彼のやり方に、一部では批判の声もあがった。しかし大川は、そんな声にまったく無頓着に、頑として自分の方針を貫いた。
貴史は、そんな監督のやりかたに、諸手をあげて賛成だった。なにしろ、そのおかげで、彼は一軍にあがることができたのだ。
開幕戦で大活躍をした貴史は、すっかり自信をとりもどした。
その後の試合もヒットを打ち続け、盗塁を稼ぎつづけた。打撃がいいおかげで、守備のほうもプロらしくなってきた。
キャンプでの苦労が、一気に花開いたようだった。
チームのメンバーたちとも、うちとけてきた。とくに今年、アメリカのマイナーリーグからやってきた、ポール・ゲイルとはウマが合った。
ゲイルは、コロコロと太った愛嬌のある体型と童顔の白人で、1塁手だった。見かけよりも若く、27才になるがまだ独身だった。
1塁のレギュラーは元大リーガーの外国選手がいたので、彼はもっぱら代打専門だった。ゲイルはでっぷりした体型にもかかわらず、器用で、ホームランバッターというよりアベレージヒッターだった。
英語の話せる貴史は、ゲイルの通訳を買って出た。ゲイルは言葉だけでなく、バッティングの技術も、年下の貴史のところによく相談に来た。彼はマイナーリーグ時代の下積み生活の経験から、貴史のバッティングに非凡なものを感じ取っていたのだ。
「ポール、構えたときに左肩がさがっているぜ。それじゃあバットを振るときに、逆に右肩がさがってしまう。スイングはレベルに振るんだ」
「オーケイ、タカシ。こんな具合か?」
「ああ、それでいい。それから、ちょっと上体に力が入りすぎのようだな。もっと楽にして、自然体で構えるんだ」
「オーケイ。こんな感じかい?」
「ああ、ずっとよくなった」
ゲイルは素直な性格をしていて、貴史の忠告を従順にとりいれた。そのこともあって、彼のバッティング技術は、めきめきと上達してきた。
6月に入っても、貴史の新人離れした活躍は続いた。
驚異的なペースで打ち続けたホームランは、5月が終わった時点で21本、もちろん、だんとつのリーグトップである。それに打率も3割8分1厘、これもトップだった。
ルーキーの活躍にひきずられたかのように、タイガースも3位に浮上していた。トップのジャイアンツは相変わら
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