(6)
大学の最終学年にはいったある日、貴史は村松博士の誘いで、阪神タイガースの関係者とゴルフをした。オーナーの八馬義範と球団社長の小津信義の二人だった。
八馬はいかにも関西財界の重鎮らしく、でっぷりした体型の老人で、歯に衣を着せぬ、ずけずけとした物言いをした。一見おっとりとした大陸風の容貌だが、話す言葉は辛辣で、一言一言が相手のハートをグサリと突き刺す。
一方、小津は背の低い小太りの男で、見るからに温厚そうだった。
最初の数ホールで、二人のゴルフの腕前はすぐにわかった。小津は、その小さな体格にもかかわらず、バランス感覚のよい手堅いプレーをしたが、八馬のほうは、まったくの我流で、救いようのないゴルフだった。
早い時刻のホールアウト後、風呂から上がった4人は、クラブハウスの食堂でくつろいでいた。
「さすが野球をやってるだけあって、ゴルフもうまいね。プロゴルファーでも食っていけるんじゃないですか?」
小津社長の誉め言葉に、貴史は肩をすくめた。その日、彼は75で回っていた。
「あれっ、きみは野球をやっていたのか。ゴルフ部じゃなかったのかい?」
八馬会長がとぼけて聞いた。
関西大学野球では優勝こそしていないものの、六甲大に高山あり、と名の知れた貴史のことを分かっていて、彼はわざとそう言ったのだ。
「きみ、プロになるなら、ゴルフのほうがいいんじゃないか。いや別に、わしがチョコレートを取られたから、そう言ってるわけじゃないが」
貴史は黙っていた。その横で小津社長が助け船をだした。
「会長、お言葉を返すようですが、高山くんのピッチングとバッティングは、プロでもじゅうぶん通用しますよ。パワーとテクニック、どちらも超一流の素質があると思います」
それを聞いて、八馬がわざとらしく笑い声をあげた。
「そうかい?小津くんがそう言うんなら間違いないだろう。バットと言えば、きみ、さっき風呂場で拝見したけど、立派なお道具をぶらさげてるな。さすが外国人の血が混じっているだけはある」
こんども貴史は、八馬の言葉を無視した。
「きみ、無口なんだね?」
追い討ちをかけるように、八馬が言った。
「冗長な会話はしないようにしているんです。エネルギーの無駄使いになりますから」
貴史はブスッとして言った。
とたんに、八馬が腹をゆすらせて笑いだした。
「おもしろい男だ。ところできみ、こんど、わしにゴルフを教えてくれんかね?100を切って、みんなをアッと言わせたいんだ」
貴史はしばらく無遠慮に、八馬の突き出たタイコ腹を見ていた。それから少し考えて、言った。
「まあ、無駄なことだと思いますけど――やってみますか?」
「おい、きみ、失敬な!無駄なことだと言うのはよけいなことじゃないか」
八馬がふくれっ面をして抗議した。
横から小津が話題をそらせた。
「まあまあ会長、ちょっと、からかわれただけですよ。――ところで高山くん、卒業後の進路は決まってるのかい?」
「父と同じ建築家になりたいと思っています。来年からアメリカに留学しようと準備しているんです」
八馬が大げさに驚いた表情をした。
「へーえ、きみって建築の勉強をしているんだ」
貴史はじろりと年配者を見た。
「ぼくが建築の勉強をしていたら、何かおかしいですか?」
「いやなに、きみはあまり勉強が得意ではないのでは、と思ってね」
八馬がしれっとして言った。
「どうして、そう思うんですか?」
貴史は少しムキになっていた。
それをとりなすように、小津が貴史に問いかけた。
「建築もいいけど――プロ野球の選手になる気はないのかい?」
「そのことは村松先生ともよく話し合いました。でも、ぼくは欲張りなんです。野球も続けたいけどゴルフもやりたい。もちろん建築の設計も。あいた時間にはバンドのメンバーと集まって、ジャズやロックもやりたいし――。プロ野球に入れば、ほかのことは何もできないでしょう。それに、ぼくはアマチュアですが、プロの厳しさは充分、分かっているつもりです」
いままで黙っていた村松が、口を開いた。
「きみとはこれまでなんども議論したけど――あれこれやるのもひとつの人生だが、ひとつのことで一流になるのは、もっと生き甲斐のあることだと思うな。きみには恵まれたスポーツの才能があるんだ。それにまだ若い。やり直しだってきく。まずプロ野球に挑戦してみるのも、ひとつの生き方だと思うな」
あとを継いで、八馬会長がめずらしくまじめな口調で訊いた。
「今秋のドラフト会議で、阪神タイガースがきみを1位指名したら、きみはうちに来るか?」
「ぼくを1位指名?冗談でしょう。でも、万一そうなっても、分かりません。タイガースは好きですけど――あれこれ屁理屈をつけて言いましたが、正直言って、ぼくはプロ野球でやっていけるかどうか、自信がありません」
「大丈夫だ。きみの
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