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翌週、高山貴史は、村松博士の医療施設を訪れていた。
そこはもっぱら、怪我をした人たちのリハビリ用の施設だった。しかし、故障していないのに、村松の提唱する科学的なトレーニングを受けるために、プロのスポーツマンも何人か訪れていた。
そこで数人の知名度のあるスポーツ選手を見かけて、貴史は目を輝かせた。
村松は、貴史の体力測定すべてに立ち会った。
所長みずからがそんなことをするのは、珍しいことだった。その日は体力測定だけでなく、血液検査、尿検査、心電図、脳波測定――貴史のあらゆるデータが取られた。

「実験に使われるモルモットの気持ちが、多少なりと分かったような気がしました」
全ての検査が終わって、診療室に戻ったとき、貴史が軽口をたたいた。
達雄はおだやかな表情で青年を見ていたが、内心は驚嘆していた。
彼は独自の体力評価のグラフを作っていた。円を中心から10分割し、中心点から放射状に伸びた10本の線に、各測定値をそれぞれの尺度で記入する。各点を横に結びつけた形が、その選手の体力傾向を表わすというわけだ。
ふつう、スポーツ選手は、自分の専門分野に関係のあるテストで抜群の成績をあげるのだが、専門外の部分では一般人とさほど変わらない。
ところがこの若者は、すべてのテストで高得点を上げ、体力評価のグラフは円に近かったのだ。とくにジャンプ力は、いままでのデータのなかで最高値を出していた。

達雄は測定結果を説明しながら、若者にそのグラフを見せた。
「今までたくさんのスポーツ選手の体力測定をやってきたが、こんな高いレベルで円に近いグラフを見たのは初めてだよ。これで見る限り、きみは広範囲のスポーツに適応した、非凡な体力を持った人間ってことになる」
それを聞いて、貴史は他人ごとのように言った。
「へーえ、そうですか。先生は、まるでぼくがスーパーマンのような言い方をされますね」
「わたしは事実を言ったまでだよ。もちろん、個々の測定値をとって言えば、きみの成績より上の選手はいる。しかし、きみのように、全てに渡って高得点をあげた選手は珍しい」
村松はひと呼吸おいて言った。「きみはプロ野球をめざすべきだよ。このグラフのデータから見れば、すべてにバランス感覚が要求される、野球や機械体操、十種競技などが最適だね」
村松博士の言葉に、貴史は黙って肩をすくめるだけだった。

達雄は、若者が医療施設から帰っていったあと、なにか大切なものを失った思いがしていた。
若者の体にじかに触れてテストをするときは、天にも昇る幸せな気分だった。
しかし、夢見るようなひとときは、あっという間に過ぎ去った。
彼はこれまで施設に来る何人かのスポーツ選手に、密かな思いを抱いたことはあるが、この若者ほどときめきを覚えたことはなかった。
遠い昔、ドイツに留学していたころ、ある白人男性と親密なつきあいをしていた時期があった。
若者はその白人男性に似ていた。達雄はこの先、若者に対して自分の気持ちを隠しておけるのか、自信が持てなかった。

――◇――

六甲大学は、リーグの決勝戦ともいうべき関西学院との試合で惨敗した。それでも、国立の大学が準優勝したということで、関西地区のマスコミは、普段より紙面のスペースを割いて、このニュースを取り上げた。高山貴史のことも、将来性豊かな新人選手として紹介されていた。

秋季リーグが終わると、学園祭が始まった。
貴史のような体育会系の学生たちにとって、文化系が中心の学園祭はあまりなじみのないものだった。それに国立大学であることから、私立大学のような華やかさもない。
その日、貴史はひとりで暇をもてあまして、ぶらぶらと学生会館のほうに向かっていた。館内のホールでは、ちょうど3人のジャズバンドが舞台に登場したところだった。
ドラムとベースが男、そしてピアノ兼ボーカルが女だった。
女は背が高く、170センチはありそうだ。大きく襟元をはだけた白のシャツに、ぴっちりと張りついた黒のスラックス。彼女は抜群のスタイルをしていた。そしてスタイルだけではなかった。頬骨が高く、エキゾチックな顔立ちをしている。
観衆が口笛を吹いた。
演奏が始まって、ジャズミュージックにのって女が歌いだした。
途端に場内が静まり返った。
シンとした場内に、パンチの利いたハスキーな歌声が流れた。
貴史は思わず聞きほれていた。彼はイギリス系ハーフの母親に、幼いときからピアノを教わっていたので、音楽の素養があった。その女の歌声には、非凡な才能があるのが分かった。
聴衆も静まり返って、彼女の歌に聞き入っていた。
心を揺さぶるような伸びやかな歌声がつづいた。そのバンドの演奏が終わったとき、割れるような拍手が場内を埋め尽くした。

「ハイ、きみ、ぼくにお茶をおごらせてくれるかい」
貴史は、ホールから出てきた女
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