第10章 男色の悦び

第10章 男色の悦び

私が50歳の誕生日を迎えた年、業務課長の国見が定年退職して、会社を去っていった。退職後は、マンションの管理人の仕事をやることになっていた。
職場の送別会が終わったあと、国見を私の住んでいるマンションに誘って、個人的な送別会をやった。まずベッドルームで親密なひとときを過ごした。そのあと場所をリビングに移して、ソファーでくつろぎながらウィスキーを飲んだ。
この2年あまり、いつも影のように私に付き従い、控えめに仕えてくれた国見の顔を見ていると、改めて万感の思いがこみ上げてくる。
私は口づけを交わして、しんみりと言った。
「明日からこの顔が、毎日見られなくなると思うと寂しい限りだな。でも永久の別れじゃないんだから。クニさん、会社を離れたんだから、これからは上司と部下の関係じゃなく、共通の趣味を持つ友達でいようね」
国見はにっこりとした。目元が涙でうるんでいる。
「共通の趣味――ですか。じゃあ本部長、これからもよろしくお願いします」
「ほら、その本部長って言うのが駄目なんだ。プライベートでは、磯ちゃんとか鉄ちゃんとか呼んでよ」
「急にそう言われましても――でも、じょじょに慣れるようにします」
国見は困った表情をして、恥ずかしそうに言った。

国見が会社を去ったあと、私は性生活の転換期を感じていた。
入れるだけでなく、受けてみたいという思いが強くなっていた。学生時代に一度だけ、年配者の大きな逸物を受け入れたことがあるが、すごく痛い記憶しか残っていない。それでも興味があった、ウケの快感とはどんなものだろうか。

私の手ほどきで男色の味を覚えた飯田とは、その後もときどき同衾した。回数が増えるにつれ、彼は犯されることに快感を得るようになっていた。自ら卑猥な体位で私を受け入れて、女のように身悶えしながら善がり声をあげる。
飯田の同性愛嗜好は、いっきに開花したようだ。
彼が私のマンションを訪れるのは、仕事の後だけでなく、休みの日にもやって来ることがあった。そして世話女房のように、私の下着類を洗濯し、部屋の掃除をするのだ。
どうやら飯田のような大人しいタイプは、いったん体を許すと、とことん相手に尽くすようだ。
私の老人好みは相変わらずだが、飯田に限って言えば、年下の男もいいな、と思う。

ある日、飯田がマンションに来たとき、思い切ってウケを試してみることにした。
私の申し出に、飯田は驚きと興味で揺れ動いている様子だった。
まず、飯田がいつも使っているシリンジで、直腸内をきれいにした。それから一緒に風呂に入って、お互いの体を洗った。それ自体が前戯のようなものだった。
風呂から上がると、いよいよ始めることにした。
私はベッドの上でうつ伏せになって、足を開いた。飯田の小さな手が双丘を愛撫し、開かれた尻の狭間に這い進む。すこし間があって、オイルをつけた指が、狭間にそってゆっくりと滑り下りた。
「ああ――」
気持ち良さに、我知らず声が洩れる。
器用な指先が菊門を探り当て、皺のひとつひとつにオイルを塗り込める。指の圧力が強まって、ふくらみの中心部に潜り込んだ。
「あっ!」
思わず声を上げ、腰を引いた。
開口部に侵入した指が、やさしくゆっくりと抽送運動をはじめた。これまで経験したことのない、微妙な感覚だった。指が引き抜かれ、オイルが補充されて、ふたたび侵入してきた。こんどはもう一本の指が加わっていた。さすがに苦しかった。
飯田は先を急がなかった。
指をやさしく滑らかに動かしながら、じょじょに菊座を押し広げていく。

そしていよいよ挿入行為が開始された。私は足を開き、尻を高く掲げて、迎え入れる体勢をとった。肛門に温かいものが押し当てられ、じょじょに圧力が強まってくる。
先端が入るのを感じた。
息を呑んで、シーツにしがみついた。入り口が押し広げられ、男根が押し入ってくるのを感じた。腸内で空気が圧縮されるような、奇妙な感覚だった。飯田はじらすように、ゆっくりと入ってきた。ついに、柔らかい腹が臀部に押しつけられた。
「全部入ったのか?」
「ええ」
私はつとめて体の力を抜いた。不思議な感触だった。摩擦のもたらす肉の快感ではなく、男に犯されているという倒錯した興奮だった。学生時代、初めて男を受けたときの苦痛が嘘のようだった。
飯田は入り込んだまま、しばらくじっとしていた。
それから、ゆっくりと動き出した。
直立した肉の棒が、腸壁をなめらかに行き来する。濡れた男根が粘膜を滑脱する感触は、快感というよりも、刺激に満ちた興奮だった。異様な興奮状態のなかで、私はもっと深く向かえ入れようと、尻を後ろに突き出した。
「ああ――もういきそうです」
飯田が腰をうねらせながら、うめくように言った。
「かまわん。中に出してくれ」
私が言った途端、飯田の体がピクリと痙攣する
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