第11章 絶倫社長
中華料理店の韮塚がよく行くスナックは、上品で落ち着いたムードの店だった。しかしこの店は、女性の入り込む余地のない、男たちだけの世界だった。
店の入り口には、重厚な木製ドア、その脇の壁にメンズオンリーと小さく書かれた表札がある。店内の板張りの壁には、ジェームス・ディーンやアラン・ラッドなど古き良き時代のアメリカ映画のポートレートが貼られている。
客は初老の年配層が多かった。ここに来る客も、店の従業員も、自分の意志をあからさまに出さないが、男色家か、あるいは潜在的な男色嗜好の人間ばかりのようだ。
マスターは40代半ばの独身男で、少年のようなほっそりとした体つきと、髭のない中性的な顔をしている。彼の飄々とした個性は、店の常連客たちを大いに和ませていた。
店の常連客のひとりに、岡田という名前の初老の紳士がいた。
50代後半、やや背の低い固太りの体格をして、非常に顔艶が良かった。丸く禿げ上がった額に間のあいた短い眉毛――眼鏡の奥の小さな黒目勝ちの瞳は、生真面目さといたずら好きが同居しているようだ。
彼はいつもカウンターの片隅にいて、ひとり静かに酒を飲んでいた。
ぼくはこの年配者に、胸のときめきを覚えていたが、今のところ、挨拶を交わす程度でしかなかった。
マスターから聞いたところでは、関西の大手商社から社長として子会社に移り、単身赴任で東京に来ている。月に一度の帰郷で、神戸には女房ひとりが待っている。酒が好きで、もっぱら日本酒をたしなむ東大出のインテリだと言う。
5月のゴールデンウイークに入って、スナック主催の懇親会があった。
パーティーは大いに盛り上がった。普段、口を利いたことがない客も、心を開いて、場に馴染んでいた。全員が肩を組んで唄を歌い、抱き合ってダンスをした。
パーティーが最高潮に達したとき、そばにいた岡田がぼくの手をそっと握った。肉厚でやわらかく、そして温かい感触だった。
年配者が示した突然の愛情表現に、ぼくはどぎまぎした。
岡田の表情を窺うと、アルコールで目元がすこし赤らんでいたが、いつもどおりの温顔がこちらをじっと見つめていた。
ぼくは岡田の真意を計りかねて、手を握られたままにしておいた。
そのとき、いつもは物静かで口数の少ない岡田が、積極的に話しかけてきた。
「磯村さんは、とてもハンサムだから、女の子たちにもてるんでしょう」
岡田は言ったあと、少し恥ずかしそうに微笑んだ。無邪気な黒い瞳が輝いて、気のせいか熱っぽく潤んでいるように見える。
ぼくはさわやかに返した。
「ぼくはメンズオンリーですから、女の友達はいません。岡田さんこそ、素敵なお父さん顔をされていますよ」
マスターが、カウンターの奥から口をはさんだ。
「社長、ヤングの口説きには気をつけなさい。神戸に愛する奥さまがいるんでしょう」
「マスター、ぼくはべつに、岡田社長を口説いてるわけじゃないよ」
「でも岡田さんがタイプなんでしょう。鉄平くんの目付きで分かるよ。社長――」
マスターは、岡田に向いて冗談めかして言った。「鉄平くんはよしたほうがいいですよ。アレがでかすぎるから」
それを聞いて、岡田が訳知り顔にうなずいた。
「そりゃあそうだろう、こんな立派な体格をされているんだ。立派な持ち物をして当然だろう」
「立派どころか、馬並みらしいですよ。まともに相手をしたら、壊されちゃいますよ」
そのとき、ほかの客が割り込んできて、ぼくたちの微妙な会話は中断した。
夕方の5時から始まったパーティーも7時過ぎになると、静かになった。客も三々五々、帰っていって、残ったのは単身者だけになった。ぼくは岡田社長と並んでカウンターに腰掛け、マスターと雑談をしていた。
そのうちカウンターの下で、岡田の片手がぼくの太腿の上にそっと置かれた。
ぼくは気づかぬ振りをしていた。その手がおずおずと太腿を撫でだした。ぼくはたちまち疼くような興奮を覚えた。その一方で、慎み深い紳士のいつにない積極的な行動に、戸惑いを覚えていた。
ぼくと岡田社長は、どちらからともなく一緒に店を出て、岡田のアパートに行った。
いかにも高級アパートらしい建物だが、それ以上に室内の豪華さに驚いた。20畳ほどのリビングにふかふかとしたソファー、寝室には大きなダブルベッドがあった。
室内で二人きりになると、ぼくたちは上着を脱いでそっと抱き合った。
岡田の身体は固太りと思えたのに、意外にやわらかかった。ぼくは年配者の背中から腰、ベルトを越えて臀部をまさぐった。ズボンの布地越しに、肉づきの良い温かい弾力がつたわってくる。
岡田の逸物が立派なのは、触る前から分かっていた。腰にぴっちりと張りついた布地を、内側から押し上げる大きな膨らみ――。
触れてみて、そのボリューム感に驚いた。それはグングンと容積と硬度を増してきて
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