(二)
五人の浪人者を倒した新之輔は、小屋の外から声をかけた。
中で返事がして、木戸が引き開けられた。年配の武士は下帯一枚の姿で、寒さに震えながら屋外の様子を見た。
「襲ってきた五人は切り伏せた。また新手が来るかも知れん。用心したほうがいい」
新之輔は武士に言って、河原に戻ると、倒れた浪人たちの死骸を彼らの乗ってきた舟に乗せ、二隻とも下流に流した。そこで少し考えて、自分たちの舟を引きずって、小屋の横の目立たないところまで運んだ。
日はすでに落ちかけて、あたりは薄闇に包まれている。それに風が出てきた。冷気が押し寄せて、新之輔はブルッと身を震わせた。
小屋に入って鎧を脱いだ。中は風が無いだけましだった。
囲炉裏には薪がくべられていたが、火は燃えていない。火を熾す道具がなかったようだ。
「そのほうがいて、助かった。余は――」
武士が震えながら話しかけてきたが、新之輔は、「話はあとだ」と遮った。とにかく早く暖を取らなければならない。
新之輔は小屋の外に出て、枯草を取ってきた。それを薪の下に入れ、自分の荷物袋から火縄と火打ちの道具をとりだした。
ほどなく枯草に火がつき、焔が薪へと移っていった。それを初老の武士は、まるで手妻でも見ているような目つきで眺めていた。
薪はよく乾燥していたので、勢いよく燃え上がった。赤い炎の暖気がありがたかった。
武士の脱いだ濡れた服は、板の間に置かれていた。
部屋の隅に積み上げられた薪の上に、巻いた縄があった。それを部屋に張り、濡れた服の水気を絞って縄に干した。新之輔が身につけていた下帯もまだ濡れていたので、脱いで同じように干した。
素裸になった新之輔を、初老の武士は目を丸くして見ていたが、自分もおずおずと下帯を解いて、縄にかけた。
囲炉裏の火が安定してきて、部屋の空気を暖めた。炎の色が二人の裸体に反射して、見た目にも暖かい気分になる。
何かないかと小屋の中を見渡していると、隅に鉄瓶と欠けた陶器の茶碗が見つかった。
これはありがたかった。
体は乾いていたので、外の風をしのぐため、新之輔は自分の長衣を身につけた。川に入る前に脱いだので、こちらの着物は濡れていない。
鉄瓶を持って川に行き、水を汲んできた。それを囲炉裏の自在掛けに吊るした。
最後に外の様子を確かめてから板戸を閉め、しっかりと心張棒をした。
これで当面やるべきことは終わった。
新之輔は手拭いを取り出して、年配者の震える身体をごしごしと擦ってやった。背中から胸、形よく丸みをおびた腹や尻を擦っていると、白い肌が薄紅色に染まってきた。
その間、老武士は面映ゆそうな顔をしていたが、新之輔のなすままに身を委ね、じっとしていた。
そのあとふたりは板の間の上がり框に並んで腰掛け、囲炉裏の暖を取りながら初めて挨拶を交わした。
初老の武士は、保科正之と名乗った。髪に白いものが混じり、目鼻立ちに血筋の良さを思わせる気品があるが、どことなく童のような幼さも感じさせた。背はやや低く中肉で、傷の無いきれいな身体をしている。歳を尋ねると、ちょうど五十歳になるという。
囲炉裏に架けた湯が沸いたので、湯呑みに白湯を注いで、保科に飲ませた。年配者はホッとした様子だった。
それでも保科はまだ震えていた。囲炉裏に向けた身体の前は暖を取れても、背中の方が寒いのだ。
すでに十一月も終わりにきて、夜の冷気は厳しかった。寒さに強い新之輔でも、震えあがるほどだった。
新之輔は立ち上がると、保科の身体を背後から抱くようにして、股を開いて腰をおろした。
「な、何をする」
保科は慌てたが、かまわず新之輔は、着物の前をはだけて、年配者の背中と尻に肌を合わせた。
肌と肌が密着して、お互いの体温が伝わった。
「ほら、こうすれば暖かくなります」
背後から年配者の体に腕をまわして、新之輔は声をかけた。
保科は、居心地悪そうに言った。
「たしかに。しかし、男に抱かれるとは――面映ゆいものじゃのう」
「いやならどきますが」
「いや、このままで良い。それにしても――余の尻に当たっているのは、そちのへのこか」
「これは失礼した。つい人肌に催し申した」
「それにしても大きい。茄子でも挟まっているのかと思うたぞ」
「おたわむれを――」
新之輔は、平静を装っていたが、内心は穏やかでなかった。人里離れた小屋に、老武士と二人きりでいるのを意識した。
下腹部に触れる柔らかい尻が、肉欲を刺激した。それに、先ほど男たちと戦ったことで、彼の気持ちはいつになく高ぶっていた。
「あらためて礼を言う。そのほうの助けで、九死に一生を得た思いじゃ」
保科は、ふくらみのある、おっとりとした物言いをした。高い地位にある人物のようだが、その構えない自然な話しぶりは、好感が持てた。そしてまた、保科の肉体に対する欲望が、むらむらと湧き上がってきた
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