(三)接待ゴルフ

(三)接待ゴルフ

ようやく藤森常務と約束したゴルフが実現した。
ゴルフ場は、俊和のメンバーコースを予約した。接待ゴルフなので、二人のほかに、それぞれの会社からひとりずつ参加していた。
藤森は、久しぶりに俊和とプレーできるということで、いたって機嫌が良かった。しかし、ゴルフ好きと言う割には、あまりスポーツ向きではなかった。
まったく我流のスイングで、打ったボールは右へ左へと飛んだ。その度に、ふっくらとした体で、フェアウェーのあちこちをよたよたと歩き回っていた。唯一、パッティングだけは、勘がいいのか、よく入った。

プレーの終わったあと、ゴルフ場の風呂に入った。
浴槽に体を沈めて、その心地よさに目を閉じていると、藤森常務の声が聞こえた。
「水原さんはお風呂が好きなようですね。今度、温泉旅行にでも行きますか」
目を開けると、藤森が湯の中で、なにかを企んだような目つきでこちらを見ている。色白の豊満な肉体が目にまぶしいほどだ。
俊和はあわてて返事をした。
「ええ、機会がございましたらその内――」あとの言葉をにごした。
藤森がにこやかな笑顔で湯の中を移動して、すぐ横に来た。
「それは楽しみだ。――それにしても、水原さんはいい身体をしていますね」
湯の中で、肌と肌が接して、俊和はどぎまぎした。ここで慌てて湯から上がると、相手に失礼になると思い、彼はそのままじっとしていた。
そのとき同伴の社員が湯に入ってきて、そのタイミングで、俊和は藤森から離れることができた。

ゴルフ場から帰る段になって、藤森常務が、「私の車で送りましょう」と言って俊和を誘った。俊和は断る理由もなかったので、一緒だった部下をひとりで帰して、自分は藤森の車に乗った。
運転手つきの社用車だったので、ふたりは後部座席にゆったりと腰かけた。
「やれやれ、これでようやく、あなたと二人きりになれました」
藤森常務はふくよかな体を寄せ、俊和の太ももに手を置いて、親密そうに笑いかけながら言った。
「どうですか、十一月に企業幹部のための研修が、九州の福岡であります。それに参加しませんか?」
俊和が考えていると、藤森は説明を始めた。
「毎年やっている、業界主催の研修会ですよ。企業の幹部が参加するので、そんなにきついスケジュールではない。二泊三日です。私も行きますから、水原さんもぜひ参加してください」
俊和は言葉を濁した。
「ええ、常務とご一緒なら喜んで。でも会社の都合がつくかどうか――」
「ああ、そのことなら大丈夫です」
藤森があっさりと言った。俊和が怪訝に思って相手を見ると、藤森は訳を話した。
「実は先だって、大内社長にお会いしたとき、その話をしました。ぜひともあなたを参加させてくださいと――。社長は快く了承してくださいました。水原くんさえよければ、参加させましょう、と。ごめんなさい、あなたに断りもなく出すぎたことをしました」
「いえいえ――じゃあ、私も参加することにいたしましょう」

途中、藤森が運転手に声をかけて、公園に寄った。天然のせせらぎを模した水路の水が気持ちよさそうだった。子供たちが裸になって、水遊びをしている。
藤森が、さっそく上半身裸になって、浅瀬に入り込んだ。
染みひとつない真っ白な肌が、陽光の下でまばゆいほどだった。女性のようにしっとりとした体を目にして、俊和は妙に心がざわめいた。
「水原さん、あなたも裸になって水に入りませんか。気持ちいいですよ」
水の中から藤森に誘われて、俊和も服を脱いだ。汗ばんだ肌に、微風が心地良かった。

次の月曜日の昼過ぎ、会社にいる俊和のもとに、伊東老人から電話があった。
株を売って、ちょっとした金が入った。週末を利用して、一泊旅行に行かないかという誘いだった。
なんとなく肌のあわ立つような予感がしたが、俊和は快く承諾した。
ところが間の悪いことに、家に帰ると、義父に北海道旅行を誘われた。スーパーの抽選くじで、ペアの北海道ツアーが当たったというのだ。日程を確かめると、伊東老人に約束した日と重なっていた。
やむなく俊和は、義父の誘いを断った。
当然のことに、義父はえらく不機嫌になった。
「だってきみはこの前、機会があれば私と一緒に出掛けよう、と言っていたじゃないか」
「もちろん、その気持ちは変っていません。でも今回は、先に約束していますので」
義父はめずらしく食い下がった。伊東老人と自分とどちらが大切なのだ、と嫌味まで言った。
「でも、約束は約束ですから――」
俊和が言いかけると、それを遮って義父はきっぱりと言った。
「分かった、言い訳なんか聞きたくない。きみはその年寄りと行ってくれ」
義父はぷいと離れて行った。部屋から出て行きながら、聞こえよがしの声が聞こえてくる。
「――全くなにを考えているんだ、身内よりも、赤の他人の爺さんを優先しおって
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