(エピローグ)
河合昌三と国見佳明は、オーストラリア行きの飛行機の中にいた。ビジネスクラスだったので、座席はゆったりとしている。
「――と言うわけで、盛山に2百万円もらったんだ」
「正確には、3億と2百万円ね」
と国見が訂正した。「こんなこと、盛山が知ったら、地団太踏んで怒るでしょうね」
「大丈夫だよ、鳥井先生の計画に穴はない」
「でも、あのゴリラ男が死んだなんて、なんか信じられないね」
「ああ、彼はさんざん悪さをしてきたから、罰でも当たったんだろう」
「毒虫に刺されたんじゃないかって、盛山は言ったんでしょう――」
国見は考えていて、ふと思いだしたように言った。「昌三さん!あの蜘蛛じゃない?ほら、堀田先生のデスクに置いていたケース。あれ、壊れて蜘蛛が逃げ出したでしょう。それにゴリラ男は写真を取りに行ったわけだし、そのとき、毒蜘蛛に刺されたんだよ」
「そんなわけないよ。あんなちっぽけな蜘蛛で――」
昌三は一笑に付して、その話は終わりと言うように、国見の手をそっと握った。その手を握り返して、国見が聞いた。
「それで、鉄平くんにはどこまで話したの」
「クニさんと一緒に、旅に出るとだけ話したよ。あまり話さないほうが、鉄平たちにとっても、安全だからね」
「でも、なんだか鉄平くんたちに、申し訳ないね」
「大丈夫だよ。鉄平と松岡は、今回の事件で、すっかり仲直りしたようだ。おれがいない間、鉄平は横浜の家を空けて、松岡の家に住むことになった。それに松岡のやつ、ときどき鉄平のベッドにもぐり込んでいるようだ」
「まさか!」
「その、まさかだよ。松岡のやつ、ゴリラ男にやられた肛門の傷を誰にも知られたくないもんだから、鉄平だけに治療を任せていたんだ。そのうち、息子に触られる快感を覚えたようだな。まあ、A感覚に目覚めたってやつだ」
まだ信じられないという表情で、国見は昌三を見つめた。
「本当の話なの?なんだかゲイの三文小説を読んでいるみたい」
――**――
話は、一ヶ月とちょっと前にさかのぼる。
場所は、鳥井税理士の部屋。昌三と国見が、全裸で椅子の上に立つ鳥井と話をしていた。
「――見た目ほどバカじゃないな。どうだ、わたしと手を組まんか?」
鳥井が意を決めたように、改まった口調で言った。
突然の話の転換に、昌三は鼻白んだ。
「なんだ、手を組むって」
「3億円を手に入れるってことだ」
「いいか、耄碌ジジイの戯言を聞いている暇はないんだ。息子たちの居場所を教えろ。今度こそ本当のことを言わないと、ちょん切るぞ」
「待て!彼らは隣の部屋だ。それから、お前たちが3億円を手に入れても、すぐ盛山の手下どもに掴まるぞ」
「どうしてだ?」
「それを知りたかったら、まず、わたしを自由にしろ。足が弱ってるんだ。いつまで持つか分からん」
「へーえ、そんなふうには見えないけどねえ」
「昌三さん、可哀相じゃないか、助けてやれよ。それに、この人の話を聞いても、損はないだろう」と国見。
「さすが、おデブちゃんは違う。あんたは出来た人だ」と鳥井。
「そりゃあ、二人は出来ちゃったんだから、庇いあうだろうさ」
「昌三さん、そんな問題じゃあないだろ。とにかく、この人の話を聞こうよ」
と言うわけで、昌三と国見は、鳥井の話を聞くことになった。そして、話を聞くにつれ、その巧妙な計画に引きずり込まれていった。
一通り話し終えると、鳥井は言った。
「正直言って、これまでは、あんたたちを犠牲にして、堀田と二人でやる予定だったんだが、計画変更だ」
「あの気の弱い弁護士先生を仲間にするって、危険じゃないのか。おれたちがちょっと脅したら、すぐばらしちまったぜ」
「ああ、彼の気の弱い性格は、充分知っている。だから、Xデーが近付くまで、肝心のことは、ほとんど知らせていない」
「でもリスクはあるな。あの先生をパートナーにする必要はあるのか?」
「法律のプロだからさ。今後なにかと手続き上、彼の知識が必要になってくるんだ。それに――」
鳥井は、にやりとした。「わたしの好みだからさ。あ、きみも、タイプだよ」
老人は、国見に向けてウインクした。
「でも、弁護士先生は、若い人好みって聞いてたぜ。じいさんのお相手をしてくれるのか」と昌三。
「大丈夫だ、わたしと実践済みだから。堀田は、あんたの息子に突っ込まれて、すっかり若者恐怖症に陥っている。なにしろ、あの先生、痛いことが大の苦手でね」
そんなやりとりがあって、昌三と国見は、鳥井の計画に乗ったのだ。
――**――
「しかし、堀田先生が昌三さんを好きになるなんて、不思議なものだね」
「ゴリラ男や鉄平のおかげだ。あいつらに比べたら、おれのモノなんか、子供並みだ」
「そんなことないよ。総合点で見れば、昌三さんのほうが上だよ」
「なんだい、クニさん、その総合点って」
「セッ
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