(二十)攻守逆転

(二十)攻守逆転

昌三は、後ろ手に縛られた手首を動かした。
しかし、ロープが手首に食いこんで、肌を痛めただけだった。ドアをへだてた部屋からは、国見のあえぐような声が続いている。まるであのときの声だ。
とたんに、身体中の血がうずうずと騒ぎだした。
(あのじじい、クニさんとやってるんだ)
思わず体を前に倒して、首にかけられた釣り糸がぐっと絞まった。
息ができない!一瞬、パニックに陥った。
あわててもとの位置に戻ると、釣り糸がすこし弛んで、なんとか息をすることが出来た。
とぎれとぎれに聞こえてくる国見の声が、いやでも耳に入ってくる。彼はふたたび手首の紐を緩めようと、悪戦苦闘した。
そのとき指の先に、尻ポケットの何かが当たった。そこでふと気がついた。ライターだ!彼はタバコを吸わないが、いつもライターを持っていた。
昌三は苦労して、尻ポケットのライターを取り出そうとした。指の先で、ゆっくりと慎重に――。もし床に落とそうものなら、釣り糸で縛り首にならないかぎり、拾うのは無理だ。
ようやくライターが、手のひらに納まった。これからが肝心なところだ。彼は慎重に位置を定めて、ライターの火をつけた。
「アチチッ!」
炎がまともに手首の肌をこがした。あやうくライターを落とすところだった。
もう一度、火をつけた。手首が邪魔になって、なかなかうまくいかない。そのとき腰のあたりが暖かくなった。焦げ臭い匂い――。
(やばい!)
炎がシャツに燃え移って、手首をまともに炙りだした。昌三はあわてて、腰をドアに押しつけた。
(アツッ!アチッ!)
ようやく火を消し止めたが、手首が猛烈にヒリヒリしだした。おまけに、今のはずみでライターを床に落としていた。
国見の声が、ひときわ高くなった。その声に、昌三は思いきって手首を引っ張った。驚いたことに、紐があっさりと切れた。おそらく炎で、ビニールが溶けたのだろう。
あとは簡単だった。首に巻かれたいまいましい釣り糸を取り、足首の紐を解いた。腰に手をやると、シャツの一部に、ぽっかりと穴があいていた。
(何か武器になるものはないか)
昌三はリビングを見渡した。片隅に立てかけられた、野球のバットが目に入った。
バットを手に取ると、寝室に近づいて、そっとドアを開けた。

素っ裸の税理士が、国見の上に覆い被さっているのが目に入った。
(この、エロじじい!)
昌三は、ベッドめがけて駆け寄った。
物音に、老人が振り返って、あわてて国見から離れようとした。
振り回したバットが、わき腹に炸裂した。
税理士の体が、ベッド越しに吹っ飛び、床の上に長々とのびた。
「クニさん――」
大丈夫かと言いかけて、昌三はあとの言葉を呑みこんだ。国見が老人にやられたことは、聞くまでもなかった。
結び目がきつくて、国見の両手を自由にするのに手間取った。ふとサイドボードの上に鋏があるのに気付いた。それを使って、ようやく縛めを解いてやると、国見は一言、体を洗ってくると言って、気だるそうにベッドから下りた。

昌三は、ロープの残りを持って、税理士に歩み寄った。老人は目を閉じて、ぐったりとしていた。細い体の中で、ぷっくりと膨らんだ腹が、ゆるやかに起伏している。生っ白い太ももの間に、薄茶色にふすぼけたイチモツが、力を失って横たわっていた。
国見に突っ込んだ、憎たらしいモノ――。それを見ていて、仕返しの方法を思いついた。
まず、老人の両手首を縛った。それから寝室を出て、リビングに行った。
ビニール紐の残りが床に転がっていた。次にお目当てのもの――釣り糸の巻き束を手に入れた。
リビングの天井を見まわして、適当なものを見つけた。天井に取り付けられた照明器具用のフック――彼は椅子を運んできて、その上に乗り、フックの強度を確かめた。

寝室に戻ると、税理士はもとのままの姿勢でいた。昌三は老人の足首を、すこし間隔をあけて縛った。それから、老人の男根を横に向けると、タマタマをひっぱりだした。持ってきた釣り糸を、グンニャリとしたタマタマの根元に巻きつけて、きっちりと結んだ。
昌三は苦労して、老人の体を肩に担ぎ上げた。意識を失った老人の体はぐんにゃりとして、予想以上に重かった。運ぶ途中、老人の下腹部からぶら下がるイチモツが揺れ動いて、昌三の顔を撫でた。
リビングに運んだところで、老人がうめき声をあげた。どうやら意識を回復したようだ。昌三はそのまま、肩に担いだ老人の体を椅子の上に立たせ、意識がしっかりするまで支えていた。老人が自分の足で立っておれるようになると、ようやく手を離した。
「大丈夫かい?」
昌三が聞いた。
「あまり大丈夫じゃないね。こんなサーカスみたいなことをやらされたら。よければ服を着させてもらえるかい?」
老人は、ふらつきながらも、のんびりと言った。
「ダメ。おれが脱がせたわけじゃな
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