(十九)はったり対決
老人の言ったとおり、部屋には誰もいなかった。入ったところはリビングで、ふかふかの絨毯にシックな色調の板張りの壁――風采のあがらない老人の住まいにしては、豪勢な内装だった。
昌三が拳銃を構えて老人を見張っているあいだ、国見がほかの部屋をざっと調べた。その間、老人は脇デスクに寄りかかり、面白そうに二人の様子を見ている。
「寝室がひとつだけ。あとはダイニングキッチンとバスルーム、それに物置。とくに変わったところはなかった」
戻ってきた国見が言った。
昌三はうなずくと、老人に向って質問した。
「拉致した二人はどこにいる。知らないとは、言わせないぞ」
老税理士は、肩をすくめた。
「拉致した二人?なんのことやら、さっぱり理解できませんね」
「ふざけるな!おれの息子だ」
昌三は、手にした拳銃を振りかざした。「正直に言え。さもないと、あの世からのお迎えが早くなるぞ」
「そう意気がりなさんな」
老人はのんびり言うと、デスクの引出しを開けた。
「何をしている。動くな!」
老人は引き出しの中から、黒光りする小型のピストルを取り出した。彼はそれを、二人のほうに向けた。
「あんたの持っているのは、おもちゃの拳銃。そして、わたしの持っているのは、本物の拳銃だよ」
「なにっ!バカなことを言うな」
昌三は虚勢を張ったが、手がじっとりと汗ばんでくるのを覚えた。
「じゃあ、勝負だ」
老人は昌三に向けて、拳銃を握る腕を、まっすぐに伸ばした。
「ああ、待って!」
国見が、あわてて叫んだ。
「おや、なにを慌てているんだね」
いよいよ余裕を持って、老人が言った。
(どうも形勢が悪いな――)
なんとか挽回しようと、昌三は努めて平静に言った。
「拳銃の音がすれば、誰かが警察に通報するんじゃないかなあ」
「試してみるかい?」
老人はほほ笑んだ。「前に試したことがあるけど、音は案外、小さいんだよ」
国見が昌三のほうを見て、お手上げだというように、肩をすくめた。
「どうやら立場が、逆転したようだね」
老人はおだやかに言った。一見、優しそうな目が、いたずらっ子のように輝いていた。とても悪いやつらの仲間だとは思えない顔つきだ。
老人は拳銃をかまえながら、もう一方の手でデスクの引出しを探り、ビニール紐の巻き束と鋏を取り出した。それを昌三の足元に放り投げた。
「まず、おチビちゃんに働いてもらおうかな。その紐を使って、おデブちゃんの両手首を縛っておくれ。手首はくっつけなくていい。10センチほど離して、別々に縛るんだよ」
昌三は、老人の命令に従わざるを得なかった。ときどき老人が、細かい注文を加えた。作業が終ると、国見に命令した。
「さあ、今度は、おデブちゃんの番だよ。おチビちゃんの手首を縛りなさい。ただし今度は、おチビちゃんの手を、後ろに組んで縛るんだよ」
老人は、何事につけてもぬかりがなかった。さすが税理士という、緻密な商売をやっているだけはある。
国見は、両手首を縛られたまま、ぎこちなく作業をした。縛り方がまずいと言って、最初からやり直しさせられた。それから老人は、二人を歩かせて、物置のドアの前に、昌三を座らせた。
「さあ、おチビちゃん、床にお尻をつけて、足を前に伸ばしてごらん。そうそう。さておデブちゃん、今度はおチビちゃんの足首を縛るんだよ。しっかり結ばないと、またさっきのように、やり直しさせるからね」
国見はしかたなく、老人の言うままに、昌三の両足首をしっかりと縛った。その間、昌三は、うらめしそうに作業を見守っていた。
老人は、生贄のしばられた手首と足首の状態を調べ終わると、満足そうにうなずいた。
「さあて、おデブちゃんは、別の部屋がいいな。こちらに来なさい」
老人は、国見の腕をつかんだ。そこで昌三のほうを、振り返った。
「おチビちゃんは、おとなしく待っているんだよ。すこしでも動いたら――そのときは分かってるね」
老人は拳銃を、わざとらしく見せ付けた。それから国見を引っ張って、横の部屋に連れていった。
そこは寝室に使われているらしく、部屋の中央に大きなダブルベッドが据えられていた。
税理士は、ベッドを顎で指し示して言った。
「さあ、あのベッドの上に寝なさい」
国見が不審そうに老人を見ると、鳥井は安心させるようにほほ笑み、穏やかな声で言った。
「わたしは、あんたのように可愛らしい男に優しいんだ。あんたには窮屈な思いをさせたくない。ただし、手はベッドの枠に縛りつけさせてもらうよ。さあ、仰向けになって」
二重まぶたのおだやかな目で見られて、国見は、最悪の事態にもかかわらず、なんとなく安心した。
(そんなに悪い人ではなさそうだな――)
国見がベッドの上に横たわると、老人は彼の手を上に引き上げ、木枠と手首を一定の長さに離して、ロープで結びつけた。
老人は、国見の
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