(十七)拷問
松岡康太郎と鉄平は、手足を縛られ、仲良く床の上に転がされていた。
グレーのカーペットに、大型ベッドやソファーセットが配置され、かなり広い部屋だった。窓には分厚いカーテンが引かれている。
「父さんがスケベ根性を出すから、捕まったんだよ」
「なにを言う。先に捕まったのはおまえのほうじゃないか」
二人は、同じ会話を蒸し返していた。
鉄平は、年甲斐もなく女に垂らしこまされた父を、非難していた。それも、よりによって、公園のトイレで不埒なことをやろうとは――。
一方、康太郎は、思いを遂げずに中断されたことを、怒っていた。
(畜生、あと1分でもあれば――あれは、最高の名器だったのに)
先に現実に戻ったのは、鉄平のほうだった。
「父さん、もうよそうよ。それより、どうやって逃げ出すかだよ」
「手足を縛られて、何ができるんだ?」
「あきらめが早いよ。そのうちチャンスはやってくるさ」
康太郎は首をねじまげて、不思議そうに息子の顔を見た。
「一度聞きたいと思っていたが――横浜の親父は、なんの商売をやってたんだ?」
「運送業――そのあとは、ビルの管理人って言ってたよ」
「嘘だな。あいつのやわな手は、労働者の手じゃない。それに、鍵を開けたり、人をペテンにかけたり――。あれはぜったいに、堅気の人間のやることじゃない」
「横浜の父さんは、頭を使ってるってことじゃないの?」
「頭を使う?」
康太郎は、せせら笑った。「わたしだって頭を使って商売してるんだ。しかし、あいつは違う。あいつの商売は、詐欺師か泥棒ってとこだな」
鉄平は、横浜の父親の悪口を言われて、一瞬、ムッとした。
「父さんだって、店の従業員を安い給料でこき使ってるじゃないか。考えようによっては、あくどい商売をやってるよ」
「なにおっ、わたしの商売のどこがあくどいって――」
そこで康太郎は、口を閉ざした。ドアの鍵を開ける音がしたからだ。
部屋に入ってきたのは、三人の男だった。
ひとりは盛山達雄、MT商事の社長だ。初対面だが、弁護士の事務所で写真を見ていたので、すぐに分かった。およそ世の中の穢れと縁のないような、無邪気な童顔。その実、企業の弱みにつけこんで甘い汁を吸う、総会屋。
もうひとりは、ゴリラ男の田中。彼らを拉致した男だ。康太郎と鉄平は、あらためて田中を目の前にして、すくみあがった。彼らの位置からは、雲突くほどの大男だった。肩も胸も腕も、筋肉がまんまんと盛り上がっている。それに、知性を全く感じさせない獰猛な顔つき――執念深そうな小さな目と分厚い唇、ごつい顎が岩のように突き出ている。
そして最後は、茶髪のお兄ちゃん。こちらのほうは、とっくにお馴染みだ。
盛山社長は、康太郎を見下ろしながら、物柔らかな声で言った。
「おまえは、わたしのパートナーに、ひどいことをしたそうだな」
盛山は茶髪のほうをちらりと見た。茶髪が露骨にいやそうな顔をした。
康太郎と鉄平は黙っていた。相手をへたに怒らせたら、何をされるか分からない。盛山の後ろに立つ、ゴリラ男が不気味だった。
盛山は微笑んだ。
「おやおや、めずらしく寡黙な親子だな」
そこで声にドスをきかせて「キーは、どこにある?」
康太郎は、うんざりしたように言った。
「持ってないと言っただろうが」
「ほう、あくまでそう言うか」
盛山の目が細められた。「なんだったら、わたしの代わりに、田中に話をさせようか。彼は尋問がうまいんだ」
「――本当に知らないんだ!」
康太郎は、つばをごくりと飲みこんだ。
(畜生、なんでこんなに喉が乾くんだ――)
「たしかにキーは預かったが、新宿駅に行く前になくなった。本当だ」
「しかし、お前は、キーの番号を言ったそうじゃないか」
康太郎はうろたえた。
「あれは口から出まかせだ。息子を助けたい一心で――」
「それで和男の尻に、ペンライトを突っ込んだってか。堀田の尻には別のモノを――」
盛山はぽってりした唇をゆがめて、鉄平のほうを見た。「若いほうがやったんだな」
二人は黙っていた。
「どうやら、失語症にかかったようだ」
捕虜を見下ろしながら、盛山が言った。「田中が、仲間のお礼を言いたいそうだ。おまえたちで決めてくれ、どっちが尻を差し出すか」
床の二人は、ギョッとして顔を見合わせた。
「おまえが相手をしろよ」
思わず康太郎が、息子に向って言った。
「なんでだっ!」
鉄平が叫んだ。
「だって、弁護士の尻に突っ込んだのは、おまえだろ」
「あれは、父さんたちが命令したからじゃないか!」
「それに、わたしより年下だ」
「それも関係ないっ!」
盛山が割って入った。
「二人とも、何をごちゃごちゃ言ってる。さあ、早く決めろ」
すかさず康太郎が、息子のほうに顎をしゃくった。
「この子が相手をします」
鉄平が怒鳴った。
「何を言うんだ!父さんこそ相手
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想