(十五)出てきたキー

(十五)出てきたキー

神田の店は、見る影もない残骸と化していた。河合昌三と国見は呆然として、焼け跡の前に突っ立っていた。
「ひどいな。丸焼けじゃないか」と国見。
注意深くまわりの様子を窺いながら、昌三も同じ思いだった。
「こんなに焼けてるとは思わなかったな。まあ、憎たらしいオヤジだけど、松岡が可哀想になってきた」
「で、これからどうするの?」
「松岡の自宅に行ってみよう。従業員に、なにか不審なことがなかったか聞いてみる」

松岡康太郎の自宅は、店から歩いて15分ほどのところにある。大きなビルとビルの狭間に建つ、鉄筋コンクリートの5階建て。1階が事務所、2階から4階までが従業員用のアパート、そして5階が家の主の住まいになっていた。二人はエレベーターに乗って、5階まで行った。
チャイムを押すと、出てきたのは40代の健康そうな女性だった。昌三が名乗ると、女は人懐っこく笑いかけ、社長から聞いていますと言って、二人を奥に通した。
20畳はありそうなリビングだった。大きな窓とベランダのある部屋で、豪華な家具類がゆったりと配置されている。
「さすが、拓満の社長の家ですね。とっても趣味が良い」
国見が感心して部屋を見回すと、昌三が鼻を鳴らして言った。
「おれには成金趣味に見えるがね」
女がコーヒーを持ってきた。彼女は夫といっしょに住み込みで、家事全般をこなしていると言う。
昌三は女に、何か変わったことはなかったかと聞いた 
女は少し考えて、言った。
「わたしの主人がたまたま放火の現場に居合わせまして、携帯電話で写真を撮ったそうです」
「その写真を見せてもらえますか」
「ええ、主人を呼んでまいります」
女が部屋を出て、しばらくすると痩せた中年男を連れてきた。
男の携帯電話を借りて、問題の写真を見た。ガソリン容器を投げ捨てようとする、大男の姿が映されていた。別の写真では、大男が炎の立つ現場から歩き去ろうとしていた。炎の逆光になって鮮明さに欠けたが、男の特徴は、はっきりと分かった。盛山の手下、田中という名前の男だ。
「なにしろゴリラのように大きな男でした」
女の亭主が言った。
昌三は男に断って、その写真を自分の携帯に転送した。それから男に聞いた。
「警察に届け出ましたか?」
「いえ、まだ――」
「じゃあ、必要になったら、わたしのほうで届けましょう。あなたは、写真のことを誰にも言わないでください。やっかいごとに巻き込まれるかも知れないから」
昌三は男の携帯に残っている、問題の写真を消去した。そのあといくつか質問したが、写真以外では、夫婦からたいした情報は得られなかった。

別れ際に、女は心配そうに話しかけた。
「あのう、社長は、どちらにおられるのでしょうか?」
「ああ、いろいろ雑用が多くて、しばらく家を空けるんじゃないかな。そのうち、帰ってきますよ」
昌三は、安心させるように女に微笑みかけて、ふと思いついたことを聞いた。
「そういえば、松岡さんが失くしたらしいんですが、コインロッカーのキーのことで、思い当たることはありませんか?小さなキーですが」
「ああ、あのキーのことですね」
女があっさりと答えた。
「えっ、キーのことを知っているんですか?」
思わぬ返事に、昌三と国見は顔を見合わせた。
「社長のデスクの上に置いています」
女は説明した。「この前、社長のシャツをクリーニングに出そうとしたら、胸ポケットに入っていました。社長がうっかりして、お忘れになったのでしょう」
「じゃあ、わたしから松岡さんに渡します。キーを持ってきてください」
「はい、ただいま」
女は、そそくさと部屋を出ていった。
女の姿が見えなくなると、昌三がぼやいた。
「なんだ、あれほど騒いでおいて。結局、松岡の単なる度忘れじゃないか」

「さて、これからどうしますか?」
駅までの道すがら、国見が昌三に聞いた。
「とりあえず、松岡に連絡をとってみる。キーが見つかったことを知らせておこう」
昌三は、松岡の携帯に電話した。ところが、電源切れか電波の届かない云々のアナウンスが流れた。今度は、息子の携帯に電話した。呼び出し音がしたが、なかなか出なかった。切ろうとしたところで、相手が出た。
「もしもし――」
用心深そうな男の声だった。
「あ、すみません。間違えました」
昌三は、即座に電話を切った。
「なんだ、番号を間違えたのですか」
国見が、にやりとした。
しかし昌三は、怪訝な表情をしていた。
「間違えるわけないよ、番号を登録しているんだから。ただ、電話に出たのは、鉄平じゃなかった」
「じゃあ、なんで他人が出たの?それに鉄平くんの携帯にも、昌三さんの名前表示が出たんじゃないの」
「鉄平はおれのことを、SHOWとしか登録していないから、他人には分からない。こんどはクニさんが電話して――あっと、公衆電話
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