(十三)調査開始
弁護士の堀田は、しょんぼりとうなだれて、MT商事の事務所を出た。彼の頭の中では、盛山社長の声が鳴り響いていた。
――おまえは、また若い男に手をつけたのか。そんなことをするから、罰が当たったんだぞ――。
(くそっ、わたしを色情狂のように言いおって。自分だって、男好きじゃないか――)
堀田は、盛山社長が年配の男、それもスリムな体型の男を好むのを知っていた。現に今も顧問税理士の鳥居芳郎といい仲だ。
それにしても、社長に問い詰められて、なにもかも話さざるをえなかった。若者を味わったこと。恐ろしい年寄りたちのこと。彼が何を聞かれ、何をされたかまで、全てだ。
小僧にオカマを掘られたと聞いたときの、笑いを押し殺した仲間たちの顔。今思い出すだけでも、顔が赤くなる。
電車がホームに滑り込んできた。彼は電車に乗り、ぼんやりとして空いた席に腰をおろした。
とたん、尻の中心部に鈍痛がはしって、彼は飛びあがった。
そんな彼を、ほかの乗客たちが怪訝そうに見ている。
昨日、若造にやられたことを、うっかり忘れていた。夜通しベッドの上にうつ伏せになって、傷ついた肛門をかばっていたのに、なんてことだ。社長も恐い人だが、あいつらはそれ以上だ。まるで悪魔軍団だ――。
自分の事務所に戻ったとき、その悪魔の顔ぶれがそろっていた。おまけに、新顔のデブまで加わっている。
「な、なんだ、きみたちは――。あれはもう済んだことでしょう」
「ところが済んでいないんだよ、センセー」
ブチが彼の腰に腕をまわして、そっと押した。「さ、さ、こちらにおいで」
ハゲがソファーにどっかりと座って、我が物顔に言った。
「長い話になりそうだ。コーヒーはないのか?」
「わたしが入れます」
新顔のデブがキッチンのほうに向った。
「どうした、座らないの?」
ソファーの脇で突っ立つ堀田に向かって、ブチが聞いてきた。そこで彼の尻の状態に気づいたようだ。
「こんな可愛らしいお尻なのに、かわいそう」
ブチに尻を撫でられて、堀田が小さく悲鳴をあげた。
「あっ、ごめん」
ブチの声には、心なしか優しさが感じられる。「じゃあ立ったまま、お話してもらおうかな。それから念のために言っとくけど――」
ブチは、背後を振り返った。ノッポの小僧がブスッとして、こちらを見ている。「このお兄ちゃんに、もう一度、突っ込まれたくなかったら、正直に話すんだよ」
ブチが椅子に腰を下ろした。ノッポは堀田の背後に立って、逃げ出さないように見張っている。
ノッポが後ろにいることで、堀田は落ちつかなかった。
デブがコーヒーを持ってきて、テーブルの上に置いた。彼は、ソファーに腰をおろさない堀田を、怪訝そうに見ていた。
「さあて、まず、おまえのほうの関係者を紹介してもらおうか。全員だぞ」
ブチが言いながら、尻ポケットから数枚の写真を取り出した。
「まず、この写真に載っている男たちの名前だ」
(どうして写真を持っているんだ。たしか引き出しに仕舞っていたはずなのに――)
と思ったが、堀田はその疑問を口に出さず、うながされるまま、写真を見ながらすなおに説明しだした。
ブチがポケットから手帳を取り出して、名前、経歴、特徴をメモした。MT商事の住所も含めて――。
「この鳥井という老人は、初めて聞くようだな。どんな役割だい?」
ブチが聞いた。
「社長の参謀役。節税対策に手を貸しています」
「節税対策じゃなくて、脱税対策だろう」
ハゲが茶化した。
「どんな男だ?」とブチ。
「税理士――」
堀田は、考えながら答えた。鳥井税理士は、ソファーに座る公家面のブチに似ている。でも、そんなことを言おうものなら、ブチが機嫌を損ねて、きのうの二の舞だ。何をされるか分からない。彼は慎重に言葉を選んで、説明を始めた。
「風采の上がらない老人だけど、盛山社長と仲がいいです。とにかく、小太りの男には、目がなくて――」
デブが、エッと言うように、こちらを見た。それを横目に、ハゲがせせら笑った。
「あんたが言うんなら確かだな」
ブチが後を引き継いだ。
「それで、なんで3億円もの大金を、駅に預けたの?」
「MT商事の従業員が、金庫から持ち逃げしたんです。その男が金の入ったケースを駅に預けたようです」
「従業員が、盛山社長を裏切ったのか?」
ハゲが聞いて、堀田が生真面目に答えた。
「ええ、MT商事で経理を担当していましたが、おそらく金に目がくらんで、持ち逃げしたんでしょう」
「その男の名前は?」
「小山英一」
「小山――」
ブチがぼんやりと宙を見た。そこで思い当たったように「おい、その男って――素っ裸でビルの屋上から落ちた男か?」
ブチの言葉に、デブがなにか言おうとして、口を閉じた。
「きのう、新聞で見た。男の身元が分かったとか書かれていたが、たしか名前は小山だ」
ブチは言って
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