(五)成功の裏側

(五)成功の裏側

松岡康太郎は58歳の独り身で、有り余るほどの資産を持っていた。その成功の裏には、彼に商売の才覚があったのは確かだが、運にも恵まれていた。
早くに父を失くした康太郎は、高校を中退すると、母方のツテを頼って、神田にある割烹料理店『拓満』に住み込みで働きだした。
店の仕事は若い康太郎にとって、過酷なほどつらかった。朝は4時半に起きて市場で材料を仕入れる手伝いをし、夜の10時半に店が閉まると、それから店内の後片付けをする。
しかし幸太郎は、頑健な肉体と、負けず嫌いの強い精神力をもっていた。彼は弱音ひとつ吐かず、黙々と働き続けた。
その当時、店を仕切っていたのは、40代半ばの女将だった。そしてまた、若い康太郎の童貞を奪ったのも、この女将である。
ある晩、偶然のことに、女将は半開きのドア越しに康太郎の部屋をかいま見た。仕事の疲れから、若い従業員はぐっすりと寝入っていた。
そのとき女将は、若者の身体の一部に目を惹かれた。パンツの隙間から、ゾロリと男の持ち物が頭を覗かせていた。それは、ふてぶてしいほど肉厚のものだった。
やもめの女将はそれから目が離せなかった。酔いも手伝って、彼女はふらふらと康太郎の部屋に入っていった。
寝込みを襲われた康太郎は、最初のうち何が起こっているのか分からなかった。それもわずかの間だった。初めて経験する目くるめく快感に、彼はいつしか息を荒げ、喘ぎ声をあげていた。
それ以来、二人の関係は続いた。女将は、康太郎のもつオスの能力に夢中になった。
康太郎は、体毛も薄く小太り気味で、けっして男性的な肉体とは言えなかったが、希に見る精力絶倫男だった。彼は女将が求めれば、いつでも期待に応えて女将を満足させた。
そのうち彼女は、康太郎の商才にも気づいて、彼を自分の跡継ぎにしようと考えだした。康太郎は女将の代行として、店を取り仕切り、商店会の会合にも出るようになった。

康太郎が35歳のとき、女将が病死し、彼は名実共に割烹屋の主になった。
そのころ商店会の長老が、町内旅行に参加していた長尾を紹介した。その紳士は、毛並みのよい家柄と上品な物腰をした、康太郎とは別の世界の人間だった。
どことなく中性的な雰囲気をもつ長尾は、康太郎を気に入った。ホテルの大浴場で、康太郎の図太い腰と、思わず見とれるほどの立派な男の持ち物を見て、一人娘の婿にしようとした。自分の家系にこの男の血を加えれば、もっと逞しい子孫ができると思ったのだ。
その娘が優子だった。康太郎は彼女を見て、内心、小躍りした。抜群のスタイルと、品のよい知的な顔。この女を体の下に組み敷いて、そのすました美人顔が歓喜にゆがむのを見ながら、じっくりと腰を使って責め立てる。
康太郎の頭の中で、みだらな想念が渦巻いた。
そして迎えた初夜。康太郎は妙に醒めていた。確かに優子は処女だった。いかにも初心な生娘らしく、痛がったし、内部も狭くて、怒張したイチモツをきつく絞めつけてくる。
しかし、それだけだった。かつて慣れ親しんだ女将とくらべると、あまりにも味気なかった。彼は、痛がる新妻の割れ目に黙々と肉杭を打ち込み、最後には、さほど感激しない射出感を味わった。
いっぽう優子は、夫の恥知らずで卑猥な行為に軽蔑を覚えていた。翌日から、彼女は康太郎の求めを拒むようになり、二人が肉の交わりを結ぶのは、限られていた。たいていは、酒に酔った康太郎が、強引に優子を押し倒して、一方的に快楽を得るときだった。
康太郎は妻への欲求不満を、他の女で解消するようになった。そして優子にとって、夫の浮気は歓迎すべきことだった。少なくとも、求められる回数が減るからだ。

商売のほうは順調だった。二つの店が三つになり、康太郎は貪欲に事業を拡張していった。一人息子が生まれたときは、あまり家庭ごとに興味を示さなかった康太郎も、感激し、子供を持つ喜びを味わった。
しかし、突然、優子が一人息子を連れて、家を出た。彼が韓国旅行に出かけているときだった。優子の父は急逝していたので、行く当ても無いはずだった。私立探偵を雇って、二人の行方を探させたが、3ヶ月たっても見つからなかった。
彼は、二人の行方を深追いしなかった。そのころの関心事は、家族より商売のほうに比重が置かれていた。彼は以前にもまして、商売に没頭し、また一方で女遊びも頻繁にした。
それから10数年後、康太郎のツキはまだ落ちていなかった。ある日、見知らぬ男がやってきて、驚くべき話をした。優子の死と一人息子の成長。そして現実に、立派に成長した息子に会ったとき、思いもよらない幸運に、天にもかけのぼりたい気分だった。これでやっと店の跡取りができた――と。
17/10/21 06:24更新 / 神亀

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