(二)悪夢

(二)悪夢

夜になると風がなくなった。とたん、梅雨時期のじっとりとむし暑い空気が蔓延した。
河合昌三はランニングシャツとフンドシ姿で、寝返りを繰りかえしていた。首や胸は汗でじっとりと湿って、半ば開いた口から、苦しそうなうめき声が洩れ出ている。
目覚めているときは、悪夢を閉め出すことができる。しかし、寝ているときは、どうしょうもなかった。――18年前のあのできごと。

――**――

宿舎の和室に運送仲間があつまって、仕事後の酒盛りをやっていた。
狭い室内は、男たちで身動きできないほど混んでいた。労働者のオスの匂いがムンムンする中で、酒を酌み交わし、猥雑な話が飛び交う。
あまり酒の飲めない昌三は、隅のほうで目立たないようにしていた。
この日は、別のお楽しみが用意されていた。ひとりの男がテレビの前で、ビデオテープをセットした。それをほかの男たちが、酒に濁り、期待に満ちた目で見ている。
セット完了、テレビ画面に明かりがちらついた。
男と女の生々しい絡み合いが、ながながと続いた。筋張った男のモノをくわえる女の顔のアップ、濡れそぼつ女の秘所を行き来する男根。
男たちはあぐらをかいたり、寝そべったり、思い思いの格好でビデオを鑑賞した。彼らは、画面に登場した男のモチモノを批評し、体位を解説し、そして下卑た笑い声をあげた。
昌三はその種のビデオを見ても、さほど興味を引かれなかった。他人がやっているのを見て、なにが面白いんだ。彼は退屈そうにあくびをした。
ところが、ある場面を見たとたん、彼はひどく動揺した。素っ裸で四つん這いになった男の肛門に、ソーセージを突っ込む場面があったのだ。
彼は息苦しさと同時に、興奮してくるのを覚えた。

ビデオが終わると、大柄な体格をした40男が、仲間に話しかけた。
「金が無いときは、男のケツマンコもいいぞ」
「しかし、締まりすぎやないか。太いデチ棒が入るのかいな?」
「大丈夫だ――とっちゃんのケツならな」
大柄な男は、一番年かさの男を見た。
「どうしてや?」
「年寄りのケツの穴はゆるんで、ちょうどいい締まり具合になるんや」
大柄な男は松井といった。昌三は、この男がきらいだった。直情傾向にある乱暴者で、およそ知性が感じられない。
年長者のほうは、上原という名前で小太り気味の体形をしている。実は、この上原と昌三は、密かに男色関係を結んでいた。誘ったのは上原で、彼は頼りない肉体をした昌三が、見かけに反して立派な男のお道具を持っているのに気づいていた。
「とっちゃん、今晩ケツを貸してくれよ」
松井がいやらしい目つきで上原を見ながら言った。
上原が無愛想に応じた。
「ばか、そんなにやりたいんなら、自分の手でこけってんだ」
「年寄りの肛門は弛んでるんだ。おれのデカマラにぴったりじゃないか。やらせろよ」
松井はまだしつこく言っていた。
昌三は上原に助け船を出したかったが、松井が怖くて黙っていた。

そのとき、上原が何か言いたそうに昌三のほうを見た。
その視線に、松井が気づいた。
昌三は色白で体毛も薄く、これまでもよく冗談まじりに、お稚児さん呼ばわりされていた。そんな彼が、立派な男の道具を持つタチ役だとは、上原以外に知る由もなかった。
松井がのっそりと立ち上がって、昌三の前に来た。
「ちょっと立ってみな」
ドスのきいた声だった。目つきが欲望からネットリとしている。
昌三が縮こまっていると、やおら松井が彼の脇に手を差し入れ、引っ張り上げた。
昌三はもがいたが、とても対抗できるような相手ではなかった。松井は昌三の体をくるりと半回転させ、背後から尻にズボンの前を押しつけて、卑猥に腰をうねらせた。
「どうだ、昌三。感じてきたか?」
松井は、昌三の太ももの前に両手を添え、ぐぐっと引き寄せた。
それを他の男たちが囃したてた。
「マッちゃん、サカリのついた猫みたいだぜ」
「あ、いやらしい。マッちゃん、勃起させてるぞ」
「ほんとだ。昌ちゃん、気をつけろ。マッちゃん、本気になってるぜ」

あっと言う間の出来事だった。やおら松井は、昌三を畳の上に押し倒した。昌三は激しく抵抗したが、彼を押さえつける相手の腕は、丸太ン棒のように太かった。彼はなすすべもなく、服をはぎとられていった。
誰かの声がした。
「おい、マッちゃん。そのへんでやめとけよ」
松井は、やめなかった。
ズボンのベルトをゆるめられ、昌三は大きな体の下でもがいた。ズボンを剥ぎ取る松井の目は、欲望にぎらぎらと輝いていた。
男たちは口々に、もうゆるしてやれ、と言うが、本気になって昌三を助けようとする者は誰もいなかった。
とうとう昌三は、生まれたままの素っ裸にひんむかれていた。
生白い裸体を見て、松井の息遣いが荒くなった。昌三は恐怖の目で、男を見あげた。相手はプロレスラーのように強大に見えた。

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