めでたさも人様次第

(1)

元旦の朝、食事の前に、篤志と忠は庭に出た。
庭の片隅で、蝋梅の黄色い花がひっそりと咲いている。
品の良い甘い香りが漂って、可憐な花がうつむき加減に咲く風情は、どことなく奥ゆかしさを感じる。
篤志はふと、忠の雰囲気に似ていると思った。
その思いを口にせず、彼は太陽の方角に向かって頭を下げ、柏手を打った。
忠がそれにならった。
「新年のスタートは、お天道さまを拝むのが一番だ」
篤志が言うと、忠もうなずいた。
「おさい銭も要らないですしね」

そのあと食堂に行って、お屠蘇を交わし合った。
「本年もよろしくお願いいたします」
忠が威儀を正して言った。篤志は照れ臭さを覚えたが、素直に返した。
「ああ、こちらこそよろしく」
雑煮とおせち料理は忠の手作りだ。
近頃は手間を省いて至る所でおせち料理を予約販売しているが、忠は手作りにこだわっていた。食材を買って、調理して、最後はひとつずつ丁寧に、重箱に盛りつける。忠はこれを2日がかりでやった。
彼の作る雑煮は篤志の大好物だった。鰹節と昆布ダシにスルメイカを加え、切り餅を柔らかく煮込む。ほかの具は、紅梅の形に切った人参と白菜だけのシンプルな雑煮である。
篤志はこんなとき、しみじみと思う――忠が戻ってきてよかった、と。

その日はどこにも出かけず、忠と二人きりでのんびりと過ごした。
久しぶりに囲碁をして、一局終わったところで、忠がマッサージをどうですかと言う。
篤志はとくに凝りを感じていなかったが、忠のマッサージは気持ち良いので、頼むことにした。
「このくらいの強さでどうですか」
「ああ、ちょうどいい」
器用な指が、首のうしろの筋肉を揉みほぐす。ついで分厚い肩の肉に移り、ツボを親指でていねいに押していく。
篤志は座敷に敷かれたマットに寝そべり、心地よいうめき声をあげた。
体重を乗せた掌が、肩甲骨から背骨伝いに下がって、太くて頑丈な腰骨のところでとどまる。指先が坐骨神経をさぐり、臀筋上部をやわらかくマッサージする。
その頃には、篤志はうとうとしていた。

夕方、グランパラダイスの妻洋児と阿礼太が屋敷にやってきて、ささやかな新年会をやった。
この数年は、恒例行事になっている。
忠のおせち料理に洋児の持ってきた料理が加わって、にぎやかになったテーブルを前に、4人はビールで乾杯した。
「太、お前また肥ったんじゃないか」
篤志が言って、太は恥ずかしそうに微笑む。
阿礼太は50歳になったばかりだ。工場のリストラに会って故郷の秋田に戻ろうとした日、グランパラダイスのマスター、妻洋児の部屋で一泊した。その夜、何があったか知らないが、次の日から店で働くことになった。
そして今や、マスターだけでなく、店に来る年配客たちからも、熱い視線を浴びている。なにしろ彼は、むっちりした健康的な肉体と、太くて生きの良い陽物の持ち主だからだ。
いっぽう、妻洋児はグランパラダイスのマスターになる前から、篤志と顔見知り――いや尻見知りの間柄だった。
彼は爪楊枝どころか、カリ高ズル剥けの立派なお道具をもっている。
浅草のゲイバーで働いていた洋児を篤志が誘って、グランパラダイスを開店した。以来、15年近くになる。
利益は大したことないが、洋児と太が生活していけるだけの稼ぎは充分ある。
歌舞伎の女形っぽい顔立ちで万事をそつなくこなす洋児と、田舎親父のような素朴な味わいを持つ太は、小さな店に溶け込んで、絶妙のコンビを形成していた。
グランパラダイスは開店当初から、篤志の意向で、年配男性を対象にしたバーである。
昨年から洋児の提案で、店の営業時間を変えた。従来の夜型ではなく正午から午後の9時までにしたのだ。
これは店の客がひとり住まいの老人が多いことを、考慮した結果だった。おのずと昼から夕方までは、食事やお茶を中心とした喫茶店の利用が多くなった。
時間だけはたっぷりとある爺さんたちは、とくに目的もなくグランパラダイスに来て、おしゃべりと、ときに2階の控室でおしゃぶりを楽しむのだ。

新年会の席で、洋児が思い出したように言った。
「そういえば、お満の女将しゃんが、猫ば飼い始めたそうばい」
小料理屋の女将、江梨子は、一時期、稚加良強と浮名を流したことがある。そんなことを思い浮かべながら、篤志は洋児に訊いた。
「ふーん、生き物を飼うのは手がかかるから嫌だって言っていたが、またなんで女将は、心変わりしたんだ?」
「家にネズミが住みついたんだって。それでネズミ退治に、猫ば飼うたってゆうとった」
「ふーん、うちにもネズミが一匹、よくうろついているな。こんど女将に頼んで、猫を貸してもらうか」
篤志は、御膳念須巳の小柄な姿を思い浮かべていた。
それに気づいて、忠がクスリと笑った。

正月2日目は、御膳念須巳がやってきた。
それを見越したように、忠はグラン
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b