(2)
篤志は百八の依頼について、しばし考えた。
稚加良強は幼馴染なので、気心はよく知れている。ツヨが二人の結婚の妨げになるのであれば、説得して身を引かせる自信はある。
いや、ツヨは常識人だから、自ら身を引くだろう。
問題は、香織の父親のほうだ。
苫戸初男は50代前半、どことなくとぼけた感じのする憎めない男である。
この八百屋の親父は、ある意味、町内の有名人だった。というのも、町内旅行の宴席で、決まって裸踊りをやるのだ。篤志も町内会長をやっていたころ、その場面に出くわしたことがある。
「よう、ハッちゃん、景気づけにアレやって!」
誰かが大声をあげて、数人が「そおれ、そおれ」と手拍子をとる。
苫戸初男が拍子に合わせて踊りながら、宿の浴衣を脱ぎ始める。そしてほどなく、フンドシ一丁の裸になる。
「そおれ、そおれ」
手拍子に合わせて、弾力のある肉付きの良い身体が、腰をくねらせ、尻を突出し、皆の前で陽気に踊る。
なんとも卑猥かつ、愛嬌のある踊りである。
そのうち紐が緩んだのか、はたまた意識的に緩めたのか、フンドシが畳の上にハラリと落ちる。
「きゃあっ!」
とたん、ご婦人連中の黄色い声があがった。彼女らは顔を両手で覆い、なおかつ指の隙間から熱心に見ている。
八百屋の親父はかまわず、節まわしを付けて踊りつづける。
「そおれ、そおれ――お股の下には何がある。お股を開けば何見える。お股に向かって拝んでご覧――あ、そおれ、そおれ」
下半身むき出しで踊る初男の姿に、男たちは腹を抱えて大笑いしている。そしてご婦人連中も、決して嫌がっている風には見えない。
ますます調子に乗って、八百屋の親父は腰をくねらせる。体つき同様、肉付きの良いイチモツが、重そうにぶらんぶらんと揺れ動く。
「そおれ、そおれ、大根、ナスビのお通りだ」
ついには上座にいる篤志に近づいて、腰のものをぐっと前に突き出す。
「そおれ、そおれ、拝みなさ〜れ。天下参りの珍宝だあ」
太いソーセージのような肉根が、半分皮をかぶって目の前に迫り、篤志は苦笑いして顔をそむける。
今度は後ろ向きに腰をかがめて、肉付きの良い尻を目いっぱい開く。とぼけた表情の尻の穴まで、はっきりと見える。
下品極まりない、なんとも卑猥な眺めである。それを衆人環視の中で、臆面もなくやるお調子者に、篤志は半ばあきれかえった。
これが二人きりの別の場面であれば、篤志とて、違った対応をしていたであろう。
あとで聞いた話によれば、その夜、八百屋の主人は、二人のご婦人を相手に、(本人言うところの)大根のぬか漬けならぬ抜き差しをしてやったという。あんなものを見せつけられれば、発情して眠れぬご婦人もいるのは当然である。
そんな根っからのノンケで女好きの男が、満須夫のような美形の男を婿として容認できるのか?
何とも言えないが、篤志は百八に向かって安心させるように微笑んだ。
「結婚するのは本人同士だ。まわりがとやかく言うことではないが、まあ、皆に祝福されながら結婚するに越したことはないな。――よし、わたしがなんとかしよう。少し時間をくれ」
「ありがとうございます。さっそくマーちゃんに伝えておきます」
百八はホッとしたようだ。
その艶やかな顔を見ながら、篤志は言った。
「シャク、せっかく来たのだ。風呂に入って行くか?」
古い屋敷の中で、風呂だけは温泉風呂風に改装している。篤志が温泉好きということもあるが、もうひとつ下心があった。これはと思った男を風呂に誘って、じっくりと裸を拝むためだ。
「こんな朝っぱらからですか?」と百八が言った。
「いいじゃないか。久しぶりにお前の裸が見たい」
浴室に差し込む朝の光の中で、背の低い中肉体型の裸体が、目にまばゆいばかりに輝いている。百八特有の、剥き立てのゆで卵のようなツルンとした肌は、多少張りを失っているが、それだけに柔らか味を帯びて、良く熟成されたまろやかな白桃を思わせる。
(73歳といえば、忠と同じだな)
篤志は無意識に、忠の体と比較していた。その忠も、色白でしっとりとした肌をしているが、百八の肌は異質のしなやかさがある。
湯につかって、老人の体をそっと引き寄せる。手の中で蕩けるような柔らかさだ。口を吸ってやると「ああ――」と小さく喘ぐ。
(この体を鉄男は可愛がっているのか)
強羅鉄男は百八の愛人で、警視庁の現職の警視だ。鉄男が二十歳を過ぎたとき、叔父にあたる稚加良強が篤志のところに連れてきて、世間を教えてやってくれと頼んだ。
篤志は、この早くに父親を亡くした男が、年配の男性に、特別の想いを抱いているのに気付いた。
それで引き合わせたのが、右舞百八である。
鉄男は百八に会った途端、老人の性別を超えた妖しい魅力に茫然自失状態だった。その夜、百八の手慣れた誘導によって、鉄男は震えながら、初めて男同士の愛を
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