(特別編)
窓を覆う分厚いカーテンが外光を遮り、間接照明の淡い光がベッドを包み込んでいる。
俺は裸になって、適度のやわらかさを持つ初老男の体を抱いていた。俺の愛撫に、小太りの肉体が悩ましげにうねり、太腿を擦り合わせる。
やがて機が熟すると、親密な柔らかみに割って入る。
「ひっ!あっ、――はああっ!」
いつもの苦痛を訴える声。それは単なる儀式で、鋭いあえぎ声は、いつしか柔らかい声に変わっていく。
固く閉まった粘膜がじんわりと広がって、俺の全てを受け入れる。温かい息吹がじかに伝わってくる。
その感触を楽しみながら、俺は動き出した。
緩やかなうねりが、じょじょに速く、荒々しく、そして目くるめく一瞬に向かって、突き進む――。
すっかり終わったあと、俺たちはベッドの上で仰向けになって、呼吸の治まるのを待っていた。
「啓ちゃんの誕生会は、7時からだったね」
うつ伏せになったまま、池上警視が、つぶやくように言った。
「ああ、池上さんの仕事が終わるのに合わせたつもりだけど――仕事をサボって、こんなことをしていていいの?」
池上が、恥ずかしそうに俺を見た。
「それはお互い様。俊ちゃんだって、仕事中だろう。で、あなたのお父さんも今晩、田舎から出て来るって?」
「ああ、俺が呼んだ。親父は田舎で一人暮らし。孫の顔も見たいだろうからね」
「こちらのご両親も来るんだろう?」
「もちろん。だけど、俺と池上さんが真っ昼間からこんなことやっていると知ったら、彼らは何て思うだろう」
「ひえー、想像しただけでゾッとする」
池上がおどけた。
俺は笑いながら、年配者の体を抱き寄せた。池上が息を弾ませて、キスを求めてきた。
俺は、交通事故で女を死に追いやったトラウマから、女を抱けなくなった。
そして、現実の世界ではありえないような、悪漢たちとの死闘を繰り広げた。早いもので、それから1年近くが経過する。
全ての記憶は薄れかけていたが、俺の身の回りは大きく変わった。一番大きなことは、女を抱けなかった原因の悪夢から解放されたことだ。そのお陰で、昔のように女を抱くことも出来るようになったが、今やすっかり男色に染まっている。
46歳の現在、性欲はまだまだ強い。しかし、精のはけ口は、もっぱら年配の男性に限られている。
まずは、1年前の事件に関わった、個人タクシーの福井と同居するようになった。これで気が向けば、いつでも福井を俺の部屋に忍ばせて、心ゆくまで愛し合うことができる。
同じく事件に関わった、警視の池上とも、ひょんなことから親密な間柄になった。彼は囚われの身になったとき、俺の見ている前で、暴漢のひとりにうしろを犯された。どうやらその屈辱が、妙な方向に作用したようだ。
俺は6年前の交通事故で右ひざを潰し、1年前の死闘で、左ひざを銃弾で打ち砕かれた。2度に渡る手術と療養生活のあと、なんとか普通に歩けるようになっている。
東京の勤め先は辞めて、現在は義父が横浜で経営している、ビルの賃貸会社で働いている。自宅から近いし、一人息子の啓介との時間も多く取れるので、今のところ十分満足している。
満足していると言えば、義父も同じ思いだろう。なにしろ俺に男の色を教えたのは、この義父だ。俺が同じ会社にいれば、いつでも接近できる。義父は義母に隠れて、事あるごとに俺をベッドに誘い込もうとする。
この日、俺は池上と親密なひとときを過ごしたあと、会社に戻った。
事務室の片隅で、篠田と経理担当の池田が、なにやらひっそりと話している。背が高くスマートな体型の義父と、背が低くぽっちゃりした体型の池田。彼らは二人三脚で今の会社を大きくしてきた間柄だが、男同士の密かな交際も続けている。
義父は68歳、池田はふたつ年下の66歳だ。
(二人はどんな愛の形を作っているのだろう?)
窓際に佇む二人の姿を見て、俺はふと思った。
俺は義父に内緒で、池田とも何回か関係していた。二人とも俺に対しては女役を演じるが、彼ら二人のときは、どちらが女役になるのだろう?
「やあ、戻ってきたか」
篠田修一郎が俺に気付いて、声をかけた。声の調子から、俺は何かあるなと思った。
案の定、義父は近づいてきて、ホッとしたように言った。
「これから大貫さんの所に行ってくれ」
「大貫さん?また、何ですか?」
「本町のビル用地の件だ。大貫さんが坪300万じゃなきゃ、売らないと言ってきたのだ」
「そんな馬鹿な!室井部長は、200万で了解したのですよ」
「それは知っている。多分、誰かが入れ知恵したか、あるいは、大貫さんが例によって気まぐれを起こしたのだろう。で、君に行ってもらいたいのだ」
本町にある古くなったビルを、建て替えようという計画があった。そのままでは地形が悪いので、隣接の土地を買い増しすることになった。
その地主が大貫で、彼は横浜市街のあち
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