(11)

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目を開けると、思いがけない白っぽい光景だった。
俺はまばたきして、目が光に慣れるのをしばらく待った。
消毒液の匂いがした。そこで、病室にいるのに気づいた。左足が包帯で固定されている。全身が気だるかった。
船上の死闘を思い出した。今考えてみても、生きているのが奇跡に思えた。

ほどなく池上が、車椅子に乗せられて、部屋に入ってきた。
手と脚は白い包帯に覆われていたが、彼の顔はすっかり生色を取り戻していた。ひげを剃ってさっぱりとした顔は、目許がやつれていたが、いつもの穏やかな表情を浮かべている。
「やあ、だいぶ顔色がよくなった」
池上が言った。
「どれぐらい眠っていたのですか?」
「まる一昼夜ですよ。今日は火曜日。あなたは手術の間も、意識を失っていましたからね」
驚いた。まさかそんなに、時間が経過していようとは。
そういえば、ぎらつく照明のもとで、白衣の医師が上から俺をのぞき込んでいた記憶が、かすかにある。
「福井さんは?」
「ああ、あの人は無事ですよ。別の部屋で寝ています」

付き添いの看護婦が部屋を出ていくと、池上は今の状況を話した。
「これで、すべて解決しますよ。警察の一斉手入れで、梶山商事はもうおわりでしょう。それから、小山は行方をくらませました。やはり彼が、署内の内通者だったようです。現在、重要参考人として指名手配されています。あとは関係者の取り調べで、一連の犯罪を実証するだけですが、それも時間の問題でしょう」
そこで彼は、悲しそうな表情をした。
「先ほど、連絡がありました。太田さんのご遺体が見つかりました」
分かっていたこととは言え、太田の死を改めて聞かされて、胸が傷んだ。
池上はそっと補足した。
「梶山が言っていた通り、近くの海で見つかりました」
俺に何かと気をかけてくれた太田。愛嬌のある太った身体。人情味のあるとぼけた仕草。老人に対する色々の思いが渦巻いた。

俺はぼんやりと訊いた。
「梶山は──どうなるのですか?」
池上はためらった表情をみせた。それから、俺の顔を見ながら、ゆっくりと言った。
「梶山は死にました」
「死んだ?でも、どうして──私は殴っただけですよ」
「ええ、あなたのせいじゃない。警察が駆けつけたとき、梶山は頭部を銃で撃たれていました」
「銃で撃たれた──誰が撃ったのです?」
「それは分からない。中村──スキンヘッドの殺し屋の名前ですが、彼が船室に落とした私の銃を、誰かが使ったようです。私のミスです。あのとき、自分の銃を回収しなかった」
「──」
「それに、銃についていた指紋は、きれいに拭き取られていました」
「でも、誰が?」
「おそらく、梶山の手の者だと思います──仲間内にだって、梶山を快く思っていなかった人間は、いたはずです」
「――」

俺が梶山の死について考えていると、池上が言った。
「ところで、あなたに忠告したいことがある」
顔をあげて池上を見ると、彼はまっすぐにこちらを見ていた。
「外人墓地の廃屋で、私の頬を叩きましたね。――それも、二度までも」
(今更なにが言いたいんだ。謝ったじゃないか――)
俺は黙って、年配者の顔を見た。
池上はゆっくりと言った。
「まるでバットで殴られたようでしたよ。年寄りに対しては、もう少し優しくしてもらいたいですな」
鼻血を出す池上の顔を思い出した。とたんに自分が恥ずかしくなった。思わず叩いたとはいえ、無抵抗の年配者に手をあげたのだ。
謝ろうとすると、池上が先に言った。
「それに船上のこともある」
(まだあるのか)
怪訝に思っていると、池上は言った。
「あなたの投げた刃物は、私の顔から10センチと離れていなかった」
池上が言っていることを理解した。スキンヘッドに向かって、包丁を投げつけたときだ。でもそんなに近かったのだろうか?
「ヒュンッと風切り音をあげて、顔の横を通り過ぎていった時、肝っ玉が縮み上がりましたよ。――とにかくこれからは、あまり私を驚かさないでもらいたい。命がいくらあっても足りませんからね」
池上に非難されて、ぐうの音も出なかった。
たしかに池上の言うとおりだった。俺の行動は思慮に欠けていた。感情の赴くままに、ずいぶんひどいことをやってきた。池上だけでなく、福井に対してもだ。

そのとき思いがけずも、池上がにっこりと微笑んだ。
親密とも言えるほどの暖かい笑顔に、俺はドギマギした。
「でも私は、あなたが大好きですよ。なにしろあなたは、私にとって、永遠のスーパースターですからね」
「――」
複雑な気持ちだった。池上の言葉は、どう受けとめればいいのか。まさか愛の告白でもないだろう。
俺がとまどっていると、池上は、少し恥ずかしそうに言った。
「それに、船で囚われていた時、あなたは、私が人に知られたくない秘密の共有者になりましたからね」
(キツネ
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