(9)

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俺は部屋の外に出た。
少し遅れて、池上と福井がお互いの体を支え合いながら続いた。池上は足を引きずって、見るからに痛々しかった。
俺はブラックジャックを片手に、慎重に廊下を進んでいった。右に並んだドアの前を通りすぎて、階段にさしかかった時だった。なんの前触れもなく背後のドアが開いた。
スキンヘッドだ。
「きさまら!」
スキンヘッドは池上たちを見て、腰のベルトに手を伸ばした。背後の俺に気づいていなかった。
俺は、スキンヘッドの後ろから、ブラックジャックを振り下ろした。
スキンヘッドの反応は素早かった。彼は背後の気配を感じて、部屋のほうに避けようとした。皮のコン棒がわずかに逸れて、男の肩をかすって、右腕に当たった。
スキンヘッドの手から、細長い銃身の拳銃が床に落ちた。
つぎの動きは、スキンヘッドの方が早かった。彼は拳銃を拾いもせず、肩からぶちあたってきた。
俺は背後の壁に激突した。衝撃に肺の空気が、いっぺんに吐き出された。
スキンヘッドは、一瞬の遅滞もなく攻撃してきた。
わき腹に拳がめりこみ、思わず前かがみになると、首筋の後ろにものすごい衝撃が襲ってきた。たまらず膝をつくと、こんどは顎に膝蹴りが襲いかかった。
俺はまったく反撃のひとつもできず、背後に吹っ飛び、床にながながと伸びた。まるで吹き荒れる、竜巻の連続攻撃に遭ったようだった。

「動くな!」
遠のきそうな意識の片隅で、池上の声が聞こえた。俺は両肘をついて、頭をぐらつかせながら目をあけた。男の大きな後姿、その向こうに細長い銃を構える、池上の姿が見えた。
「おや、ポリ公、俺を撃とうって言うのか?」
スキンヘッドの冷静な声がした。呼吸の乱れは微塵も感じさせなかった。
彼は一歩、池上のほうに近づいた。
「動くな!手を上げるんだ」
池上が命令した。声がすこしうわずっていた。
スキンヘッドは、ちっとも動じた様子がなかった。
「おまえの利き腕は、右手じゃなかったのか。その銃は、しっかり握らないと狙いが反れるぜ」
スキンヘッドはもう一歩、前に出た。
「止まれ!本当に撃つぞ」
池上の声は、悲鳴に近かった。
「じゃあ撃てよ。ただし、狙いが外れたらおまえの命はないぞ。いや待てよ――」
男はほくそえんだ。「どっちにしろおまえたちの命はないか。俺が大声を出せば、田中がやってくるからな」
どうやらこのままでは、こちらの形勢は不利だった。そのとき、床に転がった皮のコン棒が目に入った。俺は起きあがると、そっとブラックジャックを拾った。
俺の動きを追う、池上の視線に気づいたのだろう。スキンヘッドが、こちらに振り向きかけた。
今度は、こちらのほうが早かった。
俺の振り下ろしたコン棒が、男の側頭部にぶち当たった。
ブラックジャックの威力は充分だった。
スキンヘッドは声もなく床に倒れ込み、そのままピクリとも動かずに伸びていた。

「まったく、死に神のように危険な男だ」
俺は、気絶した男を見下ろしながらつぶやいた。
池上が近づいてきて、床の男を見ながら言った。
「どうやら私には警官の資格がないな。拳銃を持っているというのに、この男の脅しに負けそうになった」
「誰だって、この男には恐怖を覚えますよ。この男の体には、冷血動物の血が流れているんだ」
池上の憔悴した顔を見ると、どうやら俺の慰めも利かなかったようだ。
俺はスキンヘッドの体を、彼の出てきた部屋の中に引きずり込んだ。そして、男の様子を見た。完全に失神して、ピクリとも動かなかった。
部屋の中は、鉄製の二段式ベッドがあったが、誰も寝ているものはいなかった。下段ベッドの窪みは、スキンヘッドが横たわっていたものだろう。
梶山とゴリラ男は、どこにいるのか?
隣の部屋でないのは確かだ。今までの物音に、とっくに気づいていいからだ。
では上の部屋にいるのか?物音に気づいて、物陰から隙をうかがっているのだろうか?
(ええい、あれこれ考えている時間はない)
俺は、池上の持っていた拳銃を受け取ると、それまで持っていた皮のコン棒を、池上に渡した。池上はコン棒をベルトにさして、それまで廊下の隅っこにうずくまっていた、福井を助け起こした。

下で待っているように、手振りで二人に指図をすると、俺はひとりで慎重に階段を上っていった。
上がり切ると、拳銃をかまえながらひと呼吸おいて、そっとドアを開けた。
誰も襲ってはこなかった。
すばやく外をのぞいたが、船側のデッキには人影らしきものはない。振り返って、こちらを見上げる池上たちに、上がってこいと手招きした。
それからドアの外に出て、腰を低くかがめて、船の上部構造物の側壁に沿って船尾のほうに進んだ。
すぐ先に窓があった。俺たちが拷問された部屋の窓だ。カーテンが引かれていて、内部は見えなかった。カーテンの隙間からも光が漏れていないところをみる
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