(12)
俺は東名高速道路にはいると、藤岡から奪った煙草の箱をポケットから取り出した。ライターは車に付いていた。煙草をくわえ、火をつけた。このときほど煙草がうまいと感じたことはなかった。
啓介が奇妙な表情で、俺のほうを見ていた。俺はあわてて煙草をもみ消した。
「いいんだ、お父さん。今は必要なときだろう?」
「ああ――おまえはやさしい子だ」
しかし、煙草には手をつけなかった。
深夜の高速道路は、走っている車もまばらで、ほとんどが大型トラックだった。運転しながら、今の心理状態を冷静に考えた。ハンドルを握る手は震えていないし、幻覚も現れない。どうやら、この4年間悩まされつづけた悪夢は、消え去ったようだ。
敵に待ち伏せされていることは、当然予想してしかるべきだった。
しかしそのときの俺は、啓介を助け出した安堵感でいっぱいだった。
最初におかしいと気づいたのは、50メートルほど先を走っている、2台の車を見たときだ。黒のスポーツカーと工事用のダンプカー。道路は空いているのに、その二台は進路を妨害するように並走していた。
これといって理由はなかったが、頭の中で警鐘が鳴り響いた。
生コン工場に残された男たちでも、梶山に連絡しようと思いつく頭脳はあるだろう。電話を受けた梶山が、なにか手を打ってくる可能性は大いにある。
車を左車線に移して、スピードをゆるめた。少し遅れて、まるでリモコン操作されているように、前方の車もスピードを落とした。しかも横に並ぶ隊形を崩さない。
これで梶山の手の者だという可能性が、99パーセントまで跳ね上がった。
こちらの乗っているランドクルーザーは、敵方の所有する車だ。おそらく前の2台の車は、こちらの車を待ち伏せしていて、進路を妨害しているのだろう。
次のインターチェンジは、町田――視界にはいった道路標識によれば、7キロ先だ。
このままでは、彼らに取り押さえられる。一難去ってまた一難。どうすればいい?
作戦を考えていると、右のドアミラーに光が写った。
一瞬、愕然とした。
(背後も押さえられたのか?)
見ているうちにも、光はぐんぐんと近づいてくる。
大型輸送トラックだった。しかしそのトラックは、近づいてきてもスピードを緩めずに、追い越し車線を走っていた。
無関係の車だ。ホッとすると同時に、次に何をやるべきか思いついた。
息子にむかって言った。
「啓介、シートベルトは締めているな」
「もちろんだよ。父さんこそ締めていないじゃない。――でも、なんでそんなことを聞くの?」
息子の質問に答えず、俺はシートベルトをつけた。少しして、大型トラックが横を通りすぎた。すかさずアクセルを踏んで、同じ車線に入りこんだ。そのままスピードをゆるめずに走った。トラックとは、2メートルと離れていなかった。前の車が急停止すれば、衝突は避けられない。
俺は全神経を運転に集中した。
俺の計算通り、前を行く2台の車が大型トラックに道を譲った。トラックに続いて敵方の車を追い抜いたとき、スポーツカーを運転する男の姿がちらりと見えた。
すかさず左の車線に出て、アクセルをぐっと踏み込んだ。スピードメーターがぐんぐん上がる。ルームミラー越しに、いったん遠のいた2台の車が、スピードをあげるのが分かった。そこで右車線にはいってスピードをゆるめた。大型トラックがこちらの背後についた。これで彼らからは死角になったはずだ。
俺の思惑通り、猛スピードのスポーツカー、次いでダンプカーが左を通りすぎた。ちょうど、町田インターチェンジを通過したところだった。
すかさず左にハンドルを切って車線を変えると、急ブレーキをかけた。
車が横滑りする。
大型トラックが抗議するように警笛を鳴らし、轟音と共に走り去った。
俺は間髪を置かずにギアをバックに切りかえると、アクセルを踏み込んだ。
危険な行動だった。
しかし幸運にも、インターチェンジまで逆走する間、後続車は来なかった。
高速道路をおりるとき、敵方の車がチラリと見えた。2台の車は、本線のずっと先を走っていた。
うまくいったようだ。俺の気持ちを代弁するように、息子が溜めていた息を、フウッと吐き出した。
高速をおりたあと、保土ヶ谷バイパスに入った。
しかしまだ安心できなかった。こちらが町田インターでおりたことは、敵方にも知られている。車を運転しながら、前後に気を配った。
そして考えた、これからどこに行こうか。自宅は駄目だ。梶山の手のものが見張っているかも知れなかった。義父の家も危険だ。
ふと福井を思い出した。彼のアパートなら、前に助けてもらったとき行ったことがある。
市街地に入ると、目立たない通りで車を停めた。
車を出るとき、床に拳銃が転がっているのに気づいた。車に飛び込んだときに、放り投げたものだ。それを拾い上げると、ベルトに差した。弾は
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